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肺癌は何故できるのか③ 喫煙以外の肺癌のリスク


ちょっと(かなり・・・)期間が空きましたが、喫煙以外の肺癌のリスクのまとめを。
臨床と研究 2009;86(7):818-823を主に参考にしました


喫煙以外の肺癌リスク

1. アスベスト
・25線維/ml・年の曝露で2倍 (ヘルシンキ・クライテリア Consensus Report.1997.)
・アスベストはケイ酸塩からなる線維状の鉱物の総称。クロシドライト(青石綿),アモ サイト(茶石綿),クリソタイル(白石綿)がある。建築などにおいて広範に用いられた。悪性中皮腫や肺癌の原因。
・肺発癌においてアスベスト曝露が喫煙と相乗的な効果を示すことも疫学研究によって示 されている。

2. 室内ラドン
・ラドンは、岩や土壌に天然に存在するウランの崩壊により生成する放射能のあるガス。ラドンの崩壊過程においてα線が放出されDNAを損傷する。
・多量のラドンに曝される鉱山労働者において、職業的なラドン曝露と肺癌との因果関係が示されている。一般におけるリスクとしては、最近の収集分析の結果地下室などでのラドン曝露は肺癌リスクとなりうるとのこと(影響は比較的小さいか)。
・8.40%(3.0~15.8%)/100Bqm3がひとつの基準か?
 欧州での13研究のメタアナリ シス(Darby S. et al. 2005.)

3.調理油の蒸気
・2.12倍 (1.81~2.47)
 中国/台湾の7研究のメ タアナリシス(非喫煙者女性を対象、Zhao Y. et al. 2006.)
・調理油からの揮発物には多望芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)を始めとする変異誘発物質が含まれている。

4.室内での石炭や木材の燃焼 
・2.66倍(1.39~5.07)
 中国/台湾の7研究のメ タアナリシス(非喫煙者女性を対象、Zhao Y. et al. 2006.)

5.大麻喫煙
・2.3倍 (1.5~3.6)
 チュニジア・モロッコ・アル ジェリアでの症例対照研究(Berthiller J. et al. 2008.)

6.ウイルス
・HPV16/18で10.12倍 (3.88~26.4)
 台湾での症例対照研究(60歳以上の非喫煙女性のみ有意、Cheng Y.W. et al. 2001.)

7.エストロゲン曝露
・非喫煙者において男性と比して女性に肺癌が多い⇒肺発癌における性ホルモンの関与?
・分子生物学的には、エストロゲン受容体経路とEGFR経路(前回記述)との相互作用が報告されている。
・疫学研究では、早期閉経が肺癌のリスク減少と関連。
 ⇒特に喫煙者でのホルモン補充療法が肺癌リスクの増加と関連する!
   外因性または内因性エストロゲンが肺癌リスクとなることを示唆。
・まだ一定の見解は得られていない。

8.遺伝的因子
・germ cell mutationは非常にまれ。
・近年、EGFR遺伝子にT790M胚細胞変異を有する家系において肺腺癌が多発したという報告あり。
・遺伝による肺癌リスク増加について、非喫煙者肺癌の11研究の解析により、肺癌家族歴がある場合は1.5倍の肺癌リスクがあ ることが報告されている (Br J Cancer 2005;93(7):825-833.)
⇒喫煙関連発癌物質の代謝能力の違いには遺伝的素因が関連している!
多望芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)は、肝臓でチトクロームP450(CYP)により活性化さ れ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST) により解毒される。CYP1A1やGSTの多型と肺癌との関連が研究されており、例えばCYP1A1-I462VとGSTM1-nullバリアントの組み合わせをもつ個体は、両者が野生型の個体と比して4倍以上の肺癌リスクがあると報告されている。

・DNA修復能の違いと肺癌リスクに関しても研究がなされているが、まだ一貫した関連は見出されていないよう。

9.その他
a.問質性肺炎や肺線維症などの基礎疾患の合併
b.ヒトパピローマウイルス(HPV)16/18
c.大気汚染
d.赤身肉や加工肉摂取・緑色野菜の摂取不足
e.特殊なウイルス?
⇒羊においては、JSRV(Jaasiekte sheep retrovirus)が羊の末梢肺に気管支肺胞上皮癌(BAC:bronchioloalveolar carcinoma)類似病変を起こすことが知られている。


色々ありますね。
まあ生きている限り常に何かのリスクはあるわけで、1日生きるだけで確実に寿命は縮まるわけです。
呼吸器科医的に言うと、「肺が成長を終えると考えられる10代半ば/後半くらいからは、1回呼吸をするごとに少しずつ肺が傷んでいく」、といったところでしょうか。ちょっと言い過ぎか。
「医者の不養生」の言い訳でした。



-徒然-

異動もあり、1月~4月までは結構忙しくなっております。
ちょっと疲れ気味でしたが、本日上司に言ってもらった一言でやる気が出てきました。
いつか自分も、誰かにとってのそういう人間になれたら、と思いました。

最近睡眠時間が急激に少なくなってきているので、せっかくだから今年は睡眠時間を記録してみようと思います。