肺癌は何故できるのか②
前回に引き続き、今回は受動喫煙のリスクと肺癌の出来方の話を
環境喫煙について
環境喫煙は、Environmental tobacco smoke(ET)と英語表記される。主に、タ バコの点火部分より直接出る「副流煙」と、喫煙者が吐き出す「主流煙」より成る。
過去に報告された、非喫煙者における環境喫煙の肺癌リスクについて以下に列挙する;
A.世界での報告
1.配偶者の喫煙・・・1.21(1.13~1.30)倍のリスク
全世界での44の症例対照研究のメタアナリシス
2.職場の喫煙・・・1.22 (1.13~1.33)倍のリスク
全世界での25の研究のメタアナ リシス
(J Prev Med 32(6):542-543,2007.)
B.わが国の報告
1.配偶者の喫煙・・・1.34(0.81~2.21)倍のリスク
本邦非喫煙者女性のプロスペ クティブ研究
2.職場の喫煙・・・1.32(0.85~2.04)倍のリスク
本邦非喫煙者女性のプロスペ クティブ研究
(Int J Cancer 122(3):653-657,2008.)
→非喫煙者肺癌における環境喫煙の影響は0ではないが、大した事無いかもしれない。
肺癌の発癌と喫煙の関係 -発生部位・遺伝子変化・病理組織-
(Mitsudomi T, et al.:ASCO,2007.より引用・改変)
1.喫煙と強い関連のある肺癌-扁平上皮癌・小細胞癌
・扁平上皮癌
扁平上皮癌は、基底細胞または化生した基底細胞を発生母地とし、
squamous metaplasia
→squamous dysplasia
→carcinoma in situ
→invasive carcinoma
へと移行すると考えられている。
その発生 過程において、p16遺伝子やFHIT遺伝子などのメチル化、染色体ヘテロ接合性の喪失(Loss of heterozygosity:LOH)が重要な役割を果たしているらしい。特に染色体3pの欠失は腺癌と比して頻度が高い。
・小細胞癌
小細胞癌は神 経内分泌細胞を発生母地としていると考えられており、METやKitの発現、p53遺伝子変異の頻 度が高く、一部にはMETの遺伝子変異も報告さ れている。
2.非喫煙者にも多い肺癌-腺癌
・肺腺癌と遺伝子異常
“喫煙と関連した肺腺癌”と“喫煙と関連のない肺腺癌”に分けられる
→両者の違いのうち、最も重要な分子生物学的異常のひとつが、EGFRとその下流の細胞内シグナル伝達経路分子の遺伝子変異。この経路は、細胞増殖・アポトーシス阻害・浸潤などの癌としての性質に関わっており、経路を構成する分子の遺伝子変異により恒常的に活性化される。
肺腺癌における遺伝子異常として、EGFR、HER2、KRAS、BRAFなどが多い。
→これらの遺伝子変異は互いに排他的
=2つ以上の遺伝子変異が同時に存在することはほとんどない
このうち、頻度の高いものがEGFRとKRASの遺伝子変異
→頻度は喫煙歴によって異なる!
a.EGFR遺伝子変異;
EGFR遺伝子変異の頻度は非喫煙者で68%で、
喫煙量の増加とともに減少する傾向
→50pack-year以上の喫煙者ではその頻度は22%
→喫煙者においてEGFR遺伝子変異の頻度が少ない理由の説明;
喫煙がこの変異に予防的に働く訳ではなく、
喫煙者肺癌においてEGFR遺伝子異常を有さない肺癌が増加するため
EGFR変異肺癌が少なく見える
→実際、EGFR遺伝子変異を有する肺癌のオッズ比は
非喫煙者,喫煙者(BI≦800), 重喫煙者(BI>800)であまり変わらない
⇔EGFR遺伝子変異を有さない肺癌のオッズ 比はそれぞれ
1,2.72,10.0と増加する!
(Cancer Sci 98(1):96-101, 2007)
b.KRAS遺伝子;
KRAS遺伝子変異の頻度は、非喫煙者肺腺癌では6%で、
喫煙量の増加とともに増加する
→50pack-year以上の喫煙者ではその頻度は18%
(Cancer Res 64(24):8919-8923, 2004)
⇒つまり、喫煙に関連した発癌物質がKRAS遺伝子変異を引き起こし、
EGFR遺伝子変異は喫煙と関連のない何らかの因子が原因となってい る
また、p53遺伝子やKRAS遺伝子の突然変異のうち、G to T transversionや、p53遺伝子のコドン157,158,245,248,273における遺伝子変異は,喫煙による遺伝子変異の特徴といわれている。
・肺腺癌と発生母地
肺腺癌の発生母地としては,
①気管支被覆上皮や気管支腺上皮由来の気管支上皮関連腺癌
②末梢の呼吸細気管支~肺胞 (TRU:terminal respiratory unitと呼ぶ)にあ るll型肺胞上皮やクララ細胞を由来とするTRU型腺癌
とに分けられる
⇒TRU型腺癌は、TTF-1(Thyroid transcription factor-1)やサーファクタントタンパク発現、末梢肺細胞への形態的類似を特徴とする。WHO分類での非粘液性細気管支肺胞上皮型腺癌 (Bronchioloalveolar cell carcinoma:BAC),非粘液性BAC混合腫瘍、多くの乳頭状腺癌を指すものと思われる。
TRU型腺癌では女性・非喫煙者の頻度が有意に高く、前述したEGFR遺伝子変異を有する肺腺癌のほとんど(94%)がこの形態をとるとのこと。
⇔一方、喫煙と関連した肺腺癌の代表である、KRAS遺伝子変異を有する肺腺癌においては、58%がTRU型腺癌の形態を呈し、EGFR遺伝子変異を有するTRU型腺癌と形態学的には区別はできなかったらしい。
(Am J Surg Pathol,29(5):633-639,2005)
喫煙と関連した肺腺癌では、粘液性腺癌や腺房腺癌の形態を呈することが多い
⇒特に粘液産生型BAC (WHO分類ではBACの一亜型とされているが、TTF-1やサーファクタントタンパクの発現がなく、TRU型腺癌ではない)ではKRAS遺伝子変異の頻度が高いとの事。
次回は、非喫煙者における、受動喫煙以外の肺癌のリスクについて
-追記-
寒くなってまいりました。
ただいま外科外来中ですが、寒すぎてあまり患者さんが来ない・・・
・・・と思っていたら、下腿のかなり深い切創の患者さんが来て、動脈出血ドクドク!
久しぶりに外来で動脈結紮・筋膜縫合まで必要でした。
その後グループホームに往診に行き、
80歳以上の先輩方とおしゃべり(診察とは言えない・・・)してなごむ。
何気ない一言一言が「深い」気がしました。
明日は研究会が午後からあるので、
その前に自分のiPhone3Gを、
12月から安くなった3GSに変更しに行く予定。
32Gにしようかな・・・