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小細胞肺癌の新しい治療と、東京


火曜~水曜と東京出張でした。
「最近ブログで学術的な内容が少ない」とのクレームが多数あり、
反省して帰りの新幹線でジャーナルウォッチしました。

今回のテーマは「小細胞肺癌の新しい治療」です。
分子標的治療が始まって以来、肺癌では次々に新しい薬剤が開発されトライアルに入っています。
小細胞肺癌ではどうなるのか?
レビューするのにちょうど良い論文がありましたので、軽くまとめました。
軽く、と言っても長いですが・・・

New Advances in the Second-Line Treatment of Small Cell Lung Cancer
The Oncologist 2009;14:986–994

 北アイルランドはベルファストより
 (↑ マスターキートンファンの自分としては、行った事も無いのに懐かしい土地です)

はじめに
小細胞肺癌(SCLC)は、肺癌全体の15-20%を占めるといわれている。
非常に進行がはやく、治療をしないと平均2-4ヶ月程度の予後とされる。
進展度は限局型(LDもしくはLS)と進展型(EDもしくはES)に分けられる。
5年生存率はLDで10%、EDで2%である。

ゆえにSCLCは全身性疾患と捉えられ、手術ではなく化学療法が治療のメインとなる。
現在は、やはりプラチナ製剤が中心であり、cisplatin + etoposide (EP)もしくはcisplatin + CPT-11が多い。
carboplatinはcisplatinの代わりとして有効であり、副作用が少ない。
その他、薬剤の種類を増やしたり、用量を増やしたり、第三世代抗癌剤(Gem, taxanes, topotecanなど)を試されたりしたが、EPよりも良い結果は得られていない。

LDの場合は、化学療法に放射線照射を追加する。これにより、3年生存率が5%改善し、局所再発も25%減少する。
そして、first-lineの化学療法でCRとなった患者においては、予防的全脳照射(PCI)により、さらに予後が改善する。
最近では、EDでも化学療法が効いた症例ではPCIの効果が報告されている。

初回治療は比較的良く効く(LDで70-90%、EDで60%)のだが、その後の再発が非常に多い癌でもある。
LDで80%、EDではほぼ全症例で、初回治療後1年以内に再発が生じる。
初回治療が終了して60-90日経っていれば、再治療も効果が望める。
ちなみに、初回治療が効かないものを"resistant"、初回治療後60-90日以内に再発したものを"refractory"と呼ぶ。
SCLCを特定の神経内分泌マーカーの発現により"classic"と"variant"に分け、variant typeは化学療法への反応が乏しく予後不良であるとの報告がある(Cancer Res 1985;45:2913–2923, J Clin Oncol 1990;8:402– 408.)。予後予測において、PSと体重減少が重要なのは言うまでもない。

refractoryやresistantでは、2nd lineの化学療法が考慮される。
2nd lineの化学療法はbest supportive careと比較し、生存期間を長くするし、薬剤によってはQOLも改善すると報告されている。しかし、患者の全身状態が何よりも重要だが・・・
2nd lineの治療法としては、topotecan, irinotecan (CPT-11), amurbicine, Cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine(CAV,古いが)など。
2nd lineとしてpemetrexedも試されたが、結果は今ひとつだった。

結局、これまでの"cytotoxic drug"では大幅な予後の改善は望めない現状である。
そこで、"新しい"薬剤に期待が持たれる。

血管新生阻害薬(Antiangiogenic drugs)
bevacizumab(アバスチン)は、vascular endothelial growth factor (VEGF)に対するmonoclonal antibodyであり、非小細胞肺癌(NSCLC)で効果を発揮している。
SCLCでも1st lineとして効果が報告されている。
・1st lineでは2つのphase II studiesあり:
 bevacizumab + 他の抗癌剤の併用 
 対象はES SCLC
 → overall response ratesは、2つの報告でそれぞれ69%と62%だった
   [J Clin Oncol 2007;25(18 suppl):Abstract 7564.、
    J Clin Oncol 2007;25(18 suppl):Abstract 7563.]

・2nd lineでは1つのphase II studiesあり:
 再発SCLCに対しbevacizumab + paclitaxel
 → disease control rate 66% (PR 11.1%, SD 55.5%)
   median PFS time of 13 weeks,
   median OS time of 21 weeks
   [J Clin Oncol 2008;26(15 suppl):Abstract 19013]

・再発症例に対するoral topotecan + bevacizumabのstudyが始まる

SorafenibはRaf kinase, VEGF receptor(VEGFR)-2, VEGFR-3, platelet-derived growth factor receptor β(PDGF β)をターゲットとする薬剤。
単剤としてはphase II、oral topotecanとの併用治療としてphase Iのstudyが始まっている。

AZD2171 もsorafenibと同様のmultiple kinase inhibitorであり、単剤治療としてphase II trialが始まっている。



Inhibition of Downstream Signaling Pathways
phosphatidylinositol 3' kinase/Akt signaling pathwayはSCLCの増殖に重要な経路である。
そして、mammalian target of rapamycin (mTOR)がこの経路の中心的役割を担う。
RAD001 (everolimus)は新しいoral mTOR inhibitorであり、再発SCLCに対してphase II studyが始まっている。preliminaryなデータでは、効果は今一つのよう。副作用は問題ないとの事。



Prosurvival Bcl-2 Family Inhibitors
「アポトーシス誘導」が今後期待できる治療法かもしれない。
もともと、抗癌剤はmitochondrial (or intrinsic) pathwayを介しアポトーシスを促進して効果発現してきた。なので、「新しい話」ではない。しかし、抗癌剤の耐性については重要な問題。
mitochondrial apoptotic pathwayはBcl-2 family of proteinsの相互作用により調節されている。Bcl-2 familyの蛋白はBcl-2 homology (BH) domainsを1つ以上共有しており、構造や機能の特徴から3つのグループに分けられる。
「Bax」と「Bak」は「proapoptotic members」であり、4つのBH domainのうちBH1–3を持つ。そして、化学療法によるアポトーシスに必要な蛋白である。
その他のproapoptotic membersとしては、BH domain 3のみを持つ蛋白があり、「BH3-only proteins」といわれる (e.g., Bid, Bim, Bad, Noxa, Puma)。
そして、「antiapoptotic members」なる蛋白があり、これらは4つのBH domain全てを持つ (e.g., Bcl-2, Bcl-xL, Bcl-w, Mcl-1, A1)。
これらの蛋白質がどのような機序でアポトーシスを誘導していくのかは分かっていないが、BaxとBakを活性化すると、アポトーシスが誘導される事が明らかになっている。
(この辺の詳しいところは難しいので省略)

antiapoptotic Bcl-2 proteinsが高値だと、腫瘍の活動性が高く"malignant phenotype"であり、抗癌剤への抵抗性が高いとされる。そしてSCLCでは、Bcl-2が約80%のケースで高発現しているといわれる。
ゆえに、Bcl-2が新しい薬剤のターゲットとなった。
bortezomib(ベルケード)は20s proteosomeを阻害することで、Bcl-2を抑制する。
日本でも既に骨髄腫などに用いられている。
海外では再発SCLCに対しphase II trialが行われており、単剤での効果は今ひとつと報告されている。
Oblimersenは、Bcl-2 mRNAの最初の6つのコドンと相補的であるアンチセンス・オリゴヌクレオチド薬剤である。なんのこっちゃ?だが、つまりは、Bcl-2を産生するメッセンジャーRNA(mRNA)に対し遺伝学的成分を補充し、結果としてそのmRNAを不活性化し、Bcl-2が産生されるのを防ぐ・・・らしい。
SCLCの1st lineとして、EP+Oblimersenのphase II studyが行われたが、結果はイマイチであった。Bcl-2の産生抑制だけでは不十分という事なのだろう。

そこで、Small-molecule BH3 mimeticsが注目されている。
これは低分子化合物で、antiapoptotic Bcl-2 family membersの親水基に結合し、proapoptotic membersの阻害を抑える。
ABT-263は経口できる"純粋な"BH3 mimeticであり、BaxとBakの発現がないと役に立たないという特徴を持つ。Bcl-2, Bcl-xL, Bcl-wには良く結合するが、Mcl-1やA1には結合しない。
vitroでもvivoでも、単剤もしくは他剤との併用で効果を示す事がわかっている。
現在、再発SCLCに対しphase I/II studyが始まっている。
AT-101 (gossypol)もoral Bcl-2 family inhibitorである。こちらも再発SCLCに対する単剤と、topotecanとの併用でphase II trialが始まっている。
Obatoclax mesylate (GX15– 070)は、Mcl-1を含む6個全てのantiapoptotic proteinsに結合する薬剤である。in vitroではSCLCにも効果が確認されている。現在、ED-SCLCに対して、EPへの上乗せのphase I/II trialが行われている。また、2nd lineとしてtopotecanとの併用のphase I/II trialが症例集積中である。



ここまで読まれた方、ありがとうございました。



東京では色々なアドバイスを色々な方々から頂きました。
また色々と考えてみようと思います。

来月は、仕事+友人の結婚式+国際学会のため、「週末東京」×3→シカゴの予定。
穏やかな週末は12月まで待たねばならぬ・・・