吸入抗コリン薬の副作用
吸入抗コリン薬の副作用について、以前軽くまとめておいたものです。
少し古く、参考文献等が不明な部分もありますので、実際に使用される方はご自身でご確認をお願いします。
吸入抗コリン薬と副作用
A.抗コリン薬が気管支拡張作用を示す機序
・ムスカリン受容体拮抗剤としてコリン作動経路に作用し、アセチルコリンの受容体への結合を阻害し副交感神経系の気管支収縮を抑制することにより、気管支拡張作用をもたらす。
・チオトロピウムは3つのムスカリン受容体(M1~3)全てに結合するが、M2受容体からはより早く離開するため、気管支拡張を阻害することはない。
・肺では中枢気道のほとんどがM3受容体、末梢気道はM3受容体が半分以上・残りはほとんどM1受容体、といわれる。したがって、吸入抗コリン薬は中枢気道の拡張効果が大きい。(β刺激薬との違い)
・短時間型作動抗コリン薬であるイプラトロピウムはムスカリン受容体に対する選択性が乏しく、チオトロピウムはこの点で薬理学的に勝っている。
B.抗コリン薬の種類
1. 注射薬
・硫酸アトロピン(0.5 mg/1ml/A)
・臭化ブチルスコポラミン(20 mg/1ml/A)
2. 経口薬
*消化管選択的
・臭化ブトロピウム(コリオパン)
・臭化プロパンテリン(プロ・バンサイン)
*ムスカリン受容体選択的
・塩酸ピレンゼピン(ガストロゼピン)・・・消化性潰瘍に限られる
*神経因性膀胱や過活動性膀胱
・塩酸オキシブチニン(ポラキス)
・塩酸プロピベリン(バップフォー)
3 . 吸入薬
・臭化イプラトロピウム(アトロベント)
・臭化フルトロピウム(フルブロン)
・臭化オキシトロピウム(テルシガン)
・臭化チオトロピウム(スピリーバ)
C. 吸入薬の副作用
*主な副作用の比較(薬剤インタビューフォームより)
・臭化イプラトロピウム(アトロベント):11,130例の国内調査
副作用総数 214例(1.9%)
口渇,口内乾燥 32例(0.3%)
嘔気 28例(0.3%)
頭痛 12例(0.1%)
咳誘発 4例(0.04%)
心悸亢進 11例(0.1%)
苦味 1例(0.01%)
・臭化オキシトロピウム(テルシガン):620例の国内調査
副作用総数 39例(6.3%)
口渇,口内乾燥 16例(2.58%)
嘔気 6例(0.97%)
頭痛 2例(0.32%)
咳誘発 4例(0.65%)
心悸亢進 0例(0%)
苦味 2例(0.32%)
排尿困難 2例(0.01%)
・臭化チオトロピウム(スピリーバ):177例の国内調査
副作用総数 35例(19.8%)
口渇,口内乾燥 18例(10.17%)
嘔気 0例(0%)
頭痛 0例(0%)
咳誘発 0例(0%)
心悸亢進 0例(0%)
苦味 0例(0%)
排尿困難 1例(0.56%)
*主な副作用の機序と対策
・口渇
一定量以上の吸入で、唾液の分泌低下が報告されている
・排尿困難
前立腺や膀胱頸部に存在する平滑筋が、交感神経の作用によって収縮し排尿を抑える。
抗コリン薬は膀脱括約筋収縮・排尿筋弛緩→排尿困難を起こすことあり。
特に前立腺肥大のために尿路閉塞性障害がある場合。
⇒前立腺肥大症の患者には抗コリン薬は禁忌とされているが、程度の問題と思われる。
重症度の把握を行い、α1プロッカー(交感神経遮断→排尿をうながす)の併用などもありか。
*三環系抗うつ薬やフェノチアジン系薬を併用している場合は、症状悪化しやすく要注意。
・散瞳
抗コリン薬:瞳孔括約筋を弛緩→瞳孔散大→房水の流出低下→眼圧上昇。
⇒注射薬は絶対的禁忌
*過去の報告;
抗コリン薬の経口投与では、多少の散瞳はみられても眼内圧は変化しないという報告あり
[Vet Surg 22:230-234,1993]
→吸入薬による緑内障の報告はほとんどない
日本では禁忌になっているが、海外では「注意」になっている
→禁忌の根拠は、「報告はないけど、可能性があるから」となっている・・・
→きちんと眼圧をフォローしていれば、投与可能な場合もあるのでは・・・?という専門家もいる
・麻痺性イレウス
蠕動低下による
→もともとの状態を把握する
・心疾患
UPLIFTではリスクは明らかでなかった
→何かあった場合致命的となるため、よく状態を把握しておく
・・・厚労省は、結構適当に「禁忌」を作るので困ります(FDAと比較すると結構違う)。
COPDの患者さんは少なくとも40代以上ですので、色々合併症はあって当然ですから、適当な根拠で禁忌を設定されると困りますよね。
ベーリンガー本社のスピリーバ説明書はこちら。