【JW】Thoracic endometriosis syndrome ②
Thoracic endometriosis syndromeのレビュー(Ann Thorac Surg 2006;81:761-769)の続き。
結構長いので、本日は「病理~症状~診断」まで。
病理
・TESは、胸腔に正常の子宮内膜組織が存在することで証明される。
・子宮内膜組織塊とは;
間質組織と腺組織が様々な割合で混在
多列円柱/立方上皮に裏打ちされる
・Fliederら [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
9例の胸膜・肺の異所性子宮内膜症の検討
→ 増殖している腺組織:目立たない核、好酸性に乏しい細胞質、細胞分裂像に富む
間質:細胞質が乏しい間質細胞、血管外に漏出した赤血球、ヘモジデリンを貪食した
マクロファージ
・分泌像は乏しい [Chest 2001;120:655–8.]
・胸膜(臓側・壁側いずれも)と横隔膜の子宮内膜症の検討 [Fertil Steril 2002;77:288 –96.]
子宮内膜の間質細胞と腺組織が青茶色の組織片もしくはチョコレート嚢胞に存在
→出血、線維化、炎症像を伴う
・胸膜病変の詳細 [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
粒状、もしくは粒状・嚢胞状で、胸膜肥厚・癒着・出血を伴う
まれに、5mm以下の暗赤色のくぼみとして見える
切除断片の表面ではなく深部のみに認められることもある
孤立~多発性の結節の場合が多いが、薄い空洞を呈したり、
周囲の肺実質内の出血像の内部に入りこんでいることもある。
・まれなタイプ
気管支血管束内に微小病変が存在する事あり→急性・陳旧性出血像が周囲に存在
子宮内膜間質組織が気管支血管束の外・肺胞隔壁周囲に認められることも(さらにまれ)
1例だけ、肺動脈枝の内膜増生、線維化による閉塞が認められ、
血管内腔が子宮内膜組織で覆われていた報告あり(塞栓像) [Chest 1997;111:1447–50.]
・免疫組織化学検査 [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
ほとんどの腺組織は、細胞質に様々なタイプのcytokeratin、cytokeratin 7、BER-EP4を認めた
核にestrogenとprogesterone receptorを認めた
間質細胞のほとんどは、細胞質にvimentinを認め、約30%にactin、smoothmuscle actin、
desminを認めた
間質細胞の半分は、核にestrogenとprogesteroneを認めた
上皮系もしくは神経分泌系のマーカーは、間質細胞には認められなかった
臨床症状
・Catamenial pneumothorax
TESの80%(最多) [Am J Med 1996;100:164-70.]
Catamenial pneumothoraxの定義:
月経後72時間以内に生じる気胸 [Chest 2003;124:1004-8.]
再発が月経時期と関連なく生じた報告もある
[Ann Thorac Surg 2003;75:378-81.,
J Thorac Cardiovasc Surg 2004;127:1219 -21., Chest 1980;77:107-9.,
Chest 1989;95:1368]
月経の時期に毎回気胸を生じるわけではない
→治療前に、平均1-4回の気胸歴あり 10回以上の病歴がある人もいる
[Arch Surg 1974;109:173-6.]
ほとんど前例で右側のみ [Ann Thorac Surg 2003;75:378-81.]
→左側の報告もある
[Arch Surg 1974;109:173-6., Obstet Gynecol 1974;44:407-11.]
→両側はありえるが、非常にまれ
[Arch Surg 1977;112:627-8., Obstet Gynecol 1977;50:227-31.]
症状:咳
息切れ
胸痛…自然気胸と同じだが、“横隔膜痛”=肩甲骨や頸部に放散する疼痛を訴える症例も
ほとんどの症例で症状は軽い⇔ひどいときもある [Chest 1990;98:713?6]
・Catamenial hemothorax
TESの14% …CPに合併して生じるが、まれ。
右側がほとんどだが、右はCP・左はCHという症例あり [Chest 1994:106:1894-6.]
症状:非特異的
咳、胸痛、息切れ
肺塞栓症状に似ていると報告あり [J Thorac Cardiovasc Surg 2004:127:1513-4.]
血胸量は様々だが、重症もありえる
レントゲン:単なる胸水貯留のみ
CT:胸膜に粒状病変や大きな腫瘤を認めるかもしれない [Afr Health Sci 2001;1:97-8.]
・Catameniai hemoptysis
月経周期に伴う周期性の喀血は非常にまれ→英文論文で約30 cases
[Chest 1999;115:1475-8.]
月経周期との関連が不明確で、診断に4年を要した報告もあり [Chest 1997;111:1447-50.]
喀血量は様々大量出血や死亡例の報告はない
肺実質もしくは太い気道に子宮内膜組織がある
レントゲン:肺の浸潤影・粒状影がありえるが、ほとんどは何もない
CT:境界明瞭/不明瞭な浸潤影・結節影・嚢胞・空洞・すりガラス状陰影など
→子宮内膜組織そのもの、もしくは出血像であり、月経周期でサイズが変わる
気管支病変のみの場合は、CTは役に立たない[Chest 2000;118:1205-8.]
→virtual bronchoscopyは役に立つかもしれない
気管支動脈造影:ほとんどの症例で正常
[Chest 1997;111:1447-50., Mt Sinai J Med 2002;69:261-3.,
Chest 1985;87:687-8., Chest 1990;98:1296-7.,
Chest 2003;124:1168-70., Thorax 2003;58:89-90.,
Thorax 1996;51:1060-1.].
・Lung nodules
単独ではまれ
catamenial hemoptysisに伴う事が多い
→Joseph and Sahn.ら;TES110例中7例のみ(6%) [Am J Med 1996;100:164-70.]
・月経周期に伴う胸痛:CP or CHt
→胸痛のみの症例で、腹腔鏡でCPもしくはCHtが診断された報告あり
[Fertil Steril 2002;77:288-96., Fertil Steril 1998;69:1048-55.]
・肩痛 [Fertil Steril 2002;77:288-96., Fertil Steril 1998;69:1048-55.]
良く認められる症状であり、頸部や腕に放散する
心窩部痛や右季肋部痛もあり
→ほとんどの症例は月経期のみの疼痛だが、月経数日前から疼痛があったという報告もあり
慢性疼痛で、月経時に増悪したという報告もあり
診断
気管支鏡検査
・Catamenial Hemoptysis (CH)の場合に考慮されるが・・・
確定診断の役には立たない。肺の末梢に病変が存在するため。
→出血部は分かる [Chest 1985;87:687-8., Chest 1990;98:1296-7.など]
気管支鏡で病変部が分かったという報告は10例ほどしかない
→多発性、両側、赤紫色の粘膜下病変、易出血性が多い
[Arch Intern Med 1978;138:991-2., Respir Med 1990;84:157-61.など]
病変の外観はびまん性の気道粘膜充血(易出血性)~単発の赤い斑点のみまで様々
[Thorax 2003;58:89-90.]
所見があったとしても生検で診断は厳しい→擦過細胞診で分かる事がある
[Thorax 1996;51:1060-1.]
月経の間に気管支鏡を行うと、以前認められた所見が消失しているので、診断の役に立つ
*Video-assisted thoracoscopy(VATS)が広く用いられている*
・Catamenial Pneumothorax(CP)において
横隔膜病変の観察に有用
→腱様部(tendinous portion)が最もよく侵される
穿孔は数㎜のことが多いが、もっと大きなものも報告されている
[Ann Thorac Surg 1999;68:1413-4.]
横隔膜病変と胸膜病変は同じ外観
→数㎜~1cm、色は茶~紫で、月経周期により変化する
・Catamenial Hemothorax(CHt)において
Joseph and Shanの報告;
Ope所見のまとめ。CHtの症例のうち7例中5例で胸膜病変あり、全例で横隔膜病変あり
[Am J Med 1996;100:164-70.]
CHtの病変の外観…粒状の青茶色~橙赤色のプラーク様の胸膜病変~大きな腫瘤
・lung nodulesにおいて
VATSが診断に有用 [J Cardiovasc Surg (Torino). 1998;39:867-8.]
*Catamenial chest pain
腹腔鏡で横隔膜病変が見えることがある
→小結節~数センチの大結節まで。右がほとんどだが、両側の横隔膜に見られることも
[Fertil Steril 2002;77:288-96.]
開胸術は現在はあまり行われない
→VATSで診断には十分なため
しかし、開胸術によりこの疾患の概要が分かってきた歴史がある
現在は、VATSで不十分なときのみ行われる
[J Thorac Cardiovasc Surg 1998;116:179-80.]
・・・今回も文字ばかりでスミマセン。次回、「治療」で終了です。