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~ホテルからの夜景~
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久しぶりの更新です。色々な事が積み重なり、ちょっと動けなくなっていました。

さて、CHEST 2011に来ています。今年はハワイです。日本からの発表もたくさん!
ハワイらしく、いつもの国際学会よりラフな感じがします。楽しみつつ勉強してまいります~

で、ATSより飛び込んできたニュースから。
The Lancet Oncology, Early Online Publication, 22 October 2011 doi:10.1016/S1470-2045(11)70259-5
MUC1遺伝子を発現しているNSCLCでstage3B-4・PS0-1の患者さんを対象に、化学療法(CDDP/GEM)+TG4010(poxvirusを使った免疫療法[治療的ワクチン]、MUC1腫瘍関連抗原とIL-2をコードする)を併用する群と、化学療法(CDDP+GEM)のみを行う群に分け比較。open-labelのphase2 trialで、primary endpointは6ヶ月でのPFS。
その結果、免疫療法併用群で良い結果(43·2% vs 35.1%)だったとの事。副作用も色々書いてありますが。

Phase3を行うのでしょうから、結果を待ちたいと思います。global trialはされないのかな・・・
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RAPID DISEASE PROGRESSION WITH DELAY IN TREATMENT OF NON–SMALL-CELL LUNG CANCER
Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys., Vol. 79, No. 2, pp. 466–472, 2011


Purpose
・Stage1-3BのNSCLCにおいて、診断から治療までの間に進行した症例の割合を検討する

Methods and Materials
・対象:40例のNSCLC
・治療前にCTと18-FDG PETを様々な間隔で2回施行
・「進行」の定義:新たなリンパ節腫大、新病変の出現、もしくはstageの変化

Results
・CT:1回目と2回目のMedian time intervalは13.4 weeks
・PET:1回目と2回目のMedian time intervalは9.0 weeks
・最初の検査において、
 腫瘍の最大サイズ(MTD)の中央値は3.5 cm (0.6-8.5 cm)
 SUVの中央値は13.0 (1.7-38.5)
・MTD中央値は、2回の検査の間に1.0 cm増大(中央値、35%増大)、meanでは1.6 cm増大(59%)

・19例(48%)は進行した;
 何らかの進行は、4週で13%/8週で31%/16週で46%
 ステージが上がった症例は、4週で3%/8週で13%/16週で21%
 遠隔転移は、4週で3%/8週で13%/16週で13%

・最初のT因子とN因子が進行に関連していた因子であり、病理・腫瘍のgrade・性別・maximum SUVは関連していなかった

・stage3の患者における3年生存率は、検査間で進行があった症例で18%なかった症例で67%だった(p = 0.05)

Conclusions
・NSCLCでは治療の遅れが疾患の進行に関連する可能性がある。
・診断・staging・治療の開始は早急に行うべきである。
・4-8週の遅れが生じた場合、restagingを行うべきである。


もう一つの読み方としては、検査の間に進行するような「急速進行型」の症例は予後不良で、そうでないような症例は比較的予後良好、という事でしょう。病理は関連しなかった、という事なので、「臨床的な悪性度」の方が重要であると考えられます。いずれにしろ、診断から治療までは早いに越した事は無いと思います。


-徒然-

以前担当していた患者さんのご家族(先日とはまた別の方)が面会に来てくださり、
医療の中で感じた事を書き綴った文章を下さいました。
「今後の医療でのご参考に」との事でした。
つらい事がたくさんあったと思うのですが、
ご家族の深い、どこか爽やかなお顔が印象的でした。
大変勉強になり、また感動しました。
世に色々な「振り返りカンファ」はありますが、これ以上の機会は無いと思います。
今後もこのような場を多く持てるような仕事を続けたい、
と思います。
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最近、図らずも術前化学療法となっていた症例を途中から担当したので。

中国からの報告。

Surgical Therapeutic Strategy for Non-small Cell Lung Cancer with Mediastinal Lymph Node Metastasis (N2)
Chinese Journal of Lung Cancer Vol 13, No 4 (2010)

Background and objective
・非小細胞肺癌(NSCLC)と診断された人の約30%が、stagingでN2と分類される
・これらの患者に対する手術の意義は議論が分かれるところである
・近年、手術の意義がいくらか認められてきているが、多くの理由により、手術後の5年生存率は患者によりバラバラである
・ゆえに、手術の効果が高い患者を選択することが重要である

Methods
・173例のN2に分類されたNSCLC患者のうち、165が彼らの施設で手術された(from January 1999 to May 2003)
 男性130例、女性43例 (3:1)
 平均年齢53歳 (29~79歳)
・予後因子について検討

Results
・平均生存期間:22ヶ月
・3年生存率:28.1%
・5年生存率:19.0%
・5年生存率と関係なかった因子:年齢、性別、組織型、術後化学療法・放射線照射の有無

・縦隔リンパ節転移が1箇所のN2:5生率 27.8%
              ⇔多数のN2:5生率 9.3%  (P < 0.001)

・完全切除が出来た患者の5生率:23.6%
 ⇔不完全切除患者の5生率:13.0% (P < 0.001)

・T4の場合は5生率11.1%
 ⇔T1は31.5%、T2は24.3% (P=0.01)

・肺葉切除は片肺切除と比較し、生存率が高く、手術関連合併症・死亡率が少なかった

・N2の中でも、以下の群は予後良好だった;
 手術時に判明したN2患者(unexpected N2)…5生率 30.4%
 術前のN2(proven N2)でも化学療法でdown-staging出来た患者…5生率 27.3%

・多変量解析で5生率に関連する独立因子;
 完全切除/不完全切除
 転移リンパ節の数
 原発巣のT status

・Induction therapy(術前化学療法)は73.3%の患者で奏効し手術を可能とした


Conclusion
・手術(特に肺葉切除術)はT1もしくはT2・N2・M0患者における最も有効な治療法である
・「unexpected N2」でも完全切除できれば予後良好
・「proven N2」でも化学療法でdown-stageできれば手術で予後良好
・手術の効果が低い場合;
 縦隔リンパ節転移が多部位の場合(Bulky N2を含む)
 T4の場合
・術前化学療法(Neoadjuvant chemotherapy)はN2患者の長期予後を改善する
 ⇔術後放射線照射は局所再発率は抑えるものの、長期予後改善は認められていない
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またまた癌の話です。
本文を読めていませんが、気になったので抄録だけ紹介いたします。

小細胞肺癌(SCLC)では効果のあった抗癌剤の再投与を行うことがありますが、
非小細胞肺癌(NSCLC)では時々聞いたことのある程度でした。
勉強不足を痛感・・・


Re-challenge chemotherapy for relapsed non-small-cell lung cancer
 Lung Cancer, 01/25/10, article in press
 柏のがんセンター東病院から


Background
・非小細胞肺癌(NSCLC)に対し、2nd lineの治療に1st lineと同じレジメンを用いる"re-challenge chemotherapy (RC)"についてきちんと検証した報告はない。
・RCが再発NSCLC患者に対して2nd lineの化学療法として効果があるかどうか検討した。

Materials and Methods
・施設:がんセンター東病院
・期間:1992年7月~2003年12月
・症例:再発時にRC治療を受けた28例のNSCLC患者と、docetaxel(DOC)を用いた38例のNSCLC患者について、retrospectiveにreviewした。

Results
・RC groupの内訳:21 men and 7 women, 年齢中央値62歳 (42–76歳)
            1st lineのレジメンはほとんどがplatinum-based
            投与回数の中央値は3コース (2–7コース)
            全患者が1st lineの治療に反応していた
            再発時のPSは全患者で1だった

・1st line治療から再発までの期間の中央値は5.0ヶ月(1.6–36.1 ヶ月)

・RCの奏効率は29%
・RC開始後の生存期間中央値は17.0ヶ月で、1年生存率は60%
 ⇔これはDOC群よりも良かった (p=0.0342)

Conclusion
・1st lineの治療が効いた患者さんでは、再発時に同じ薬を再投与すること(=RC)が、 一つのオプションになるかもしれない。


本文を是非とも読みたいので、入手しようと思います。

余談ですが、千葉県柏市の病院でも少し勤務していた事があったので、患者さんの事でこの病院にはちょくちょくお世話になりました。
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癌ネタが続きますが、気になる論文だったので。

抗癌剤の効き目を比較する試験はもちろん大切で、
そういう論文は放っておいても次々に出てきます。

しかし癌患者さんの中には残念ながら治癒を期待できなくなる場面も多く、
「本当に化学療法をすべきなのか?」
「いつまで化学療法を続けるべきなのか?」
について、いつも悩んでいます。

個々のケースで慎重に決めるべきなのは分かっていますが、
それはそれで思考停止かもしれません。
毎回「これでよかった・・・のかな・・・」の繰り返しです。

今回は、この事についてまとめて振り返った論文です。
私はこういう論文は初めて見ました。


Use of Chemotherapy at End of Life in Oncology Patients
Annals of Oncology. 2009;20(9):1555-1559.


Background
・適切なタイミングで化学療法を中止することは、患者のQOLのために重要である。
・"end of life"において化学療法を使用する要因は何か検討した。

Methods
・2005年4月から2年以上の間に、2つのがんセンターで緩和治療を行われ亡くなった症例を検討。
・患者の背景、癌の種類、化学療法の種類を調べ、これが死の2週間以内、もしくは4週間以内まで化学療法が行われた事実と関連するかどうか調べた(χ二乗テスト)。
 患者背景・・・死亡年齢、性別、出身国(オーストラリア人/非オーストラリア人)、
         治療を担当した医師(7人)、癌の種類、緩和的化学療法のレジメン数、
         化学療法への腫瘍の反応性
・また、これらのうち独立した因子を検討するため、多変量解析を施行した。

Results
・747例が上記の期間において死亡していた:
 median age 67 years (range 20-96)
 female 44%
・398例が化学療法を受けていた(53%):
 死の4週間以内まで施行されていた症例が18%
 死の2週間以内まで施行されていた症例が8%

多変量解析で、
・治癒の見込みがない段階で化学療法(=緩和的化学療法)を行うことになった要因:
  患者が67歳未満である事 (P < 0.01)
  癌の種類=中枢神経腫瘍 (P < 0.01)
  化学療法への反応性 (P < 0.01)


・死の4週間前まで化学療法を行うことになった要因:
 「医者の違い」だけ!!! (< 0.05)
  *7人の医師のうち、「医師6」という人が結構積極的に治療をおこなっていた

・死の2週間前まで化学療法を行うことになった要因:
 有意な因子はなかった

Conclusions
・年齢、腫瘍の種類、化学療法への反応性が、緩和的化学療法を施行する要因であった。
医師個人間の差が、死の4週間前まで化学療法を施行した唯一の要因であった。


医師-患者関係、予後予測の問題、豪と米国では化学療法をやると医師にお金が入るが家族との話し合いではお金が入らない、患者本人・家族の希望などなど、複雑な要因が絡むようです。
しかし、医師によって大きな差があることが明らかにされ、納得とともに複雑な感じもしました。
日本人ではどうなんでしょうか。きっと医師の差はあるんでしょうね。。。
いつか調べてみたいと思います。


-徒然-

本日久しぶりに娘と公園へ。
保育園の同じクラスのお友達と会い、楽しく遊んでいました。
成長したな・・・(向かって左が娘)
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今週は東京と沖縄に出張あり。
気合。
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ちょっと(かなり・・・)期間が空きましたが、喫煙以外の肺癌のリスクのまとめを。
臨床と研究 2009;86(7):818-823を主に参考にしました


喫煙以外の肺癌リスク

1. アスベスト
・25線維/ml・年の曝露で2倍 (ヘルシンキ・クライテリア Consensus Report.1997.)
・アスベストはケイ酸塩からなる線維状の鉱物の総称。クロシドライト(青石綿),アモ サイト(茶石綿),クリソタイル(白石綿)がある。建築などにおいて広範に用いられた。悪性中皮腫や肺癌の原因。
・肺発癌においてアスベスト曝露が喫煙と相乗的な効果を示すことも疫学研究によって示 されている。

2. 室内ラドン
・ラドンは、岩や土壌に天然に存在するウランの崩壊により生成する放射能のあるガス。ラドンの崩壊過程においてα線が放出されDNAを損傷する。
・多量のラドンに曝される鉱山労働者において、職業的なラドン曝露と肺癌との因果関係が示されている。一般におけるリスクとしては、最近の収集分析の結果地下室などでのラドン曝露は肺癌リスクとなりうるとのこと(影響は比較的小さいか)。
・8.40%(3.0~15.8%)/100Bqm3がひとつの基準か?
 欧州での13研究のメタアナリ シス(Darby S. et al. 2005.)

3.調理油の蒸気
・2.12倍 (1.81~2.47)
 中国/台湾の7研究のメ タアナリシス(非喫煙者女性を対象、Zhao Y. et al. 2006.)
・調理油からの揮発物には多望芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)を始めとする変異誘発物質が含まれている。

4.室内での石炭や木材の燃焼 
・2.66倍(1.39~5.07)
 中国/台湾の7研究のメ タアナリシス(非喫煙者女性を対象、Zhao Y. et al. 2006.)

5.大麻喫煙
・2.3倍 (1.5~3.6)
 チュニジア・モロッコ・アル ジェリアでの症例対照研究(Berthiller J. et al. 2008.)

6.ウイルス
・HPV16/18で10.12倍 (3.88~26.4)
 台湾での症例対照研究(60歳以上の非喫煙女性のみ有意、Cheng Y.W. et al. 2001.)

7.エストロゲン曝露
・非喫煙者において男性と比して女性に肺癌が多い⇒肺発癌における性ホルモンの関与?
・分子生物学的には、エストロゲン受容体経路とEGFR経路(前回記述)との相互作用が報告されている。
・疫学研究では、早期閉経が肺癌のリスク減少と関連。
 ⇒特に喫煙者でのホルモン補充療法が肺癌リスクの増加と関連する!
   外因性または内因性エストロゲンが肺癌リスクとなることを示唆。
・まだ一定の見解は得られていない。

8.遺伝的因子
・germ cell mutationは非常にまれ。
・近年、EGFR遺伝子にT790M胚細胞変異を有する家系において肺腺癌が多発したという報告あり。
・遺伝による肺癌リスク増加について、非喫煙者肺癌の11研究の解析により、肺癌家族歴がある場合は1.5倍の肺癌リスクがあ ることが報告されている (Br J Cancer 2005;93(7):825-833.)
⇒喫煙関連発癌物質の代謝能力の違いには遺伝的素因が関連している!
多望芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)は、肝臓でチトクロームP450(CYP)により活性化さ れ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST) により解毒される。CYP1A1やGSTの多型と肺癌との関連が研究されており、例えばCYP1A1-I462VとGSTM1-nullバリアントの組み合わせをもつ個体は、両者が野生型の個体と比して4倍以上の肺癌リスクがあると報告されている。

・DNA修復能の違いと肺癌リスクに関しても研究がなされているが、まだ一貫した関連は見出されていないよう。

9.その他
a.問質性肺炎や肺線維症などの基礎疾患の合併
b.ヒトパピローマウイルス(HPV)16/18
c.大気汚染
d.赤身肉や加工肉摂取・緑色野菜の摂取不足
e.特殊なウイルス?
⇒羊においては、JSRV(Jaasiekte sheep retrovirus)が羊の末梢肺に気管支肺胞上皮癌(BAC:bronchioloalveolar carcinoma)類似病変を起こすことが知られている。


色々ありますね。
まあ生きている限り常に何かのリスクはあるわけで、1日生きるだけで確実に寿命は縮まるわけです。
呼吸器科医的に言うと、「肺が成長を終えると考えられる10代半ば/後半くらいからは、1回呼吸をするごとに少しずつ肺が傷んでいく」、といったところでしょうか。ちょっと言い過ぎか。
「医者の不養生」の言い訳でした。



-徒然-

異動もあり、1月~4月までは結構忙しくなっております。
ちょっと疲れ気味でしたが、本日上司に言ってもらった一言でやる気が出てきました。
いつか自分も、誰かにとってのそういう人間になれたら、と思いました。

最近睡眠時間が急激に少なくなってきているので、せっかくだから今年は睡眠時間を記録してみようと思います。
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前回に引き続き、今回は受動喫煙のリスクと肺癌の出来方の話を


環境喫煙について
 環境喫煙は、Environmental tobacco smoke(ET)と英語表記される。主に、タ バコの点火部分より直接出る「副流煙」と、喫煙者が吐き出す「主流煙」より成る。
 過去に報告された、非喫煙者における環境喫煙の肺癌リスクについて以下に列挙する;
 A.世界での報告
  1.配偶者の喫煙・・・1.21(1.13~1.30)倍のリスク
    全世界での44の症例対照研究のメタアナリシス
  2.職場の喫煙・・・1.22 (1.13~1.33)倍のリスク
    全世界での25の研究のメタアナ リシス
      (J Prev Med 32(6):542-543,2007.)

 B.わが国の報告
  1.配偶者の喫煙・・・1.34(0.81~2.21)倍のリスク
    本邦非喫煙者女性のプロスペ クティブ研究
  2.職場の喫煙・・・1.32(0.85~2.04)倍のリスク
    本邦非喫煙者女性のプロスペ クティブ研究
      (Int J Cancer 122(3):653-657,2008.)

 →非喫煙者肺癌における環境喫煙の影響は0ではないが、大した事無いかもしれない。


肺癌の発癌と喫煙の関係 -発生部位・遺伝子変化・病理組織-
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  (Mitsudomi T, et al.:ASCO,2007.より引用・改変)

1.喫煙と強い関連のある肺癌-扁平上皮癌・小細胞癌
・扁平上皮癌
 扁平上皮癌は、基底細胞または化生した基底細胞を発生母地とし、
  squamous metaplasia
  →squamous dysplasia
  →carcinoma in situ
  →invasive carcinoma
 へと移行すると考えられている。
 その発生 過程において、p16遺伝子やFHIT遺伝子などのメチル化、染色体ヘテロ接合性の喪失(Loss of heterozygosity:LOH)が重要な役割を果たしているらしい。特に染色体3pの欠失は腺癌と比して頻度が高い。

・小細胞癌
 小細胞癌は神 経内分泌細胞を発生母地としていると考えられており、METやKitの発現、p53遺伝子変異の頻 度が高く、一部にはMETの遺伝子変異も報告さ れている。


2.非喫煙者にも多い肺癌-腺癌
・肺腺癌と遺伝子異常
 “喫煙と関連した肺腺癌”と“喫煙と関連のない肺腺癌”に分けられる
→両者の違いのうち、最も重要な分子生物学的異常のひとつが、EGFRとその下流の細胞内シグナル伝達経路分子の遺伝子変異。この経路は、細胞増殖・アポトーシス阻害・浸潤などの癌としての性質に関わっており、経路を構成する分子の遺伝子変異により恒常的に活性化される。

 肺腺癌における遺伝子異常として、EGFR、HER2、KRAS、BRAFなどが多い。
 →これらの遺伝子変異は互いに排他的
   =2つ以上の遺伝子変異が同時に存在することはほとんどない

 このうち、頻度の高いものがEGFRとKRASの遺伝子変異
 →頻度は喫煙歴によって異なる!
 a.EGFR遺伝子変異
   EGFR遺伝子変異の頻度は非喫煙者で68%で、
   喫煙量の増加とともに減少する傾向
   →50pack-year以上の喫煙者ではその頻度は22%
   →喫煙者においてEGFR遺伝子変異の頻度が少ない理由の説明; 
     喫煙がこの変異に予防的に働く訳ではなく、
     喫煙者肺癌においてEGFR遺伝子異常を有さない肺癌が増加するため
     EGFR変異肺癌が少なく見える
     →実際、EGFR遺伝子変異を有する肺癌のオッズ比は
       非喫煙者,喫煙者(BI≦800), 重喫煙者(BI>800)であまり変わらない
      ⇔EGFR遺伝子変異を有さない肺癌のオッズ 比はそれぞれ
       1,2.72,10.0と増加する!  
         (Cancer Sci 98(1):96-101, 2007)

 b.KRAS遺伝子
   KRAS遺伝子変異の頻度は、非喫煙者肺腺癌では6%で、
   喫煙量の増加とともに増加する
   →50pack-year以上の喫煙者ではその頻度は18%
         (Cancer Res 64(24):8919-8923, 2004)

⇒つまり、喫煙に関連した発癌物質がKRAS遺伝子変異を引き起こし、
 EGFR遺伝子変異は喫煙と関連のない何らかの因子が原因となってい る


 また、p53遺伝子やKRAS遺伝子の突然変異のうち、G to T transversionや、p53遺伝子のコドン157,158,245,248,273における遺伝子変異は,喫煙による遺伝子変異の特徴といわれている。


・肺腺癌と発生母地
 肺腺癌の発生母地としては,
①気管支被覆上皮や気管支腺上皮由来の気管支上皮関連腺癌
②末梢の呼吸細気管支~肺胞 (TRU:terminal respiratory unitと呼ぶ)にあ るll型肺胞上皮やクララ細胞を由来とするTRU型腺癌

とに分けられる

⇒TRU型腺癌は、TTF-1(Thyroid transcription factor-1)やサーファクタントタンパク発現、末梢肺細胞への形態的類似を特徴とする。WHO分類での非粘液性細気管支肺胞上皮型腺癌 (Bronchioloalveolar cell carcinoma:BAC),非粘液性BAC混合腫瘍、多くの乳頭状腺癌を指すものと思われる。
 TRU型腺癌では女性・非喫煙者の頻度が有意に高く、前述したEGFR遺伝子変異を有する肺腺癌のほとんど(94%)がこの形態をとるとのこと。 
⇔一方、喫煙と関連した肺腺癌の代表である、KRAS遺伝子変異を有する肺腺癌においては、58%がTRU型腺癌の形態を呈し、EGFR遺伝子変異を有するTRU型腺癌と形態学的には区別はできなかったらしい。
      (Am J Surg Pathol,29(5):633-639,2005)

喫煙と関連した肺腺癌では、粘液性腺癌や腺房腺癌の形態を呈することが多い
⇒特に粘液産生型BAC (WHO分類ではBACの一亜型とされているが、TTF-1やサーファクタントタンパクの発現がなく、TRU型腺癌ではない)ではKRAS遺伝子変異の頻度が高いとの事。



次回は、非喫煙者における、受動喫煙以外の肺癌のリスクについて



-追記-

寒くなってまいりました。
ただいま外科外来中ですが、寒すぎてあまり患者さんが来ない・・・
・・・と思っていたら、下腿のかなり深い切創の患者さんが来て、動脈出血ドクドク!
久しぶりに外来で動脈結紮・筋膜縫合まで必要でした。

その後グループホームに往診に行き、
80歳以上の先輩方とおしゃべり(診察とは言えない・・・)してなごむ。
何気ない一言一言が「深い」気がしました。

明日は研究会が午後からあるので、
その前に自分のiPhone3Gを、
12月から安くなった3GSに変更しに行く予定。
32Gにしようかな・・・
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帰国後はまた仕事の山と向き合う日々。
またこんな時間です。

さて、今年ももう少しです。
来年度は大阪を離れまた放浪(日本国内)する予定でありまして、
現在の研究メイン(本当か・・・?)の生活から、
呼吸器臨床メインの生活にシフトする事になっています。
いきなりではコワイので、頻度の高い疾患のおさらいを始めました。
そこで学んだ事を。

「肺癌はなぜ出来るのだろうか?」

I. 喫煙と肺癌

わが国において、年間どれくらいの人の肺癌が見つかっているかというと、2002年の統計によれば、年間約7万4千人(男性約5万2千人、女性約2万2千人)である。男性では胃癌についで2位、女性では乳癌・胃癌・結腸癌・子宮癌についで5位である。
そして、2007年の統計によると、わが国では年間約6万5千人(男性約4万7千人、女性約1万8千人)もの人が肺癌で死亡している。癌による死亡者数では、肺癌がトップである。早期発見の難しさ、進行の速さなどが主な原因であろう。

しかし何故肺癌はできるのだろうか?
その危険因子について、いくつもの報告がある。

まず、くどいようだが、タバコ。
1964年に米国公衆衛生局が、紙巻タバコが肺癌の原因であると公表した。
その後、先進国では喫煙率が下がっているが、わが国では残念ながらまだ高い。
近年男性の喫煙率は下がってきているものの、欧米と比較するとまだ2倍程度であるし、女性にいたっては20~30歳代の喫煙率が増加している(何の影響だろうか?)。

タバコには数千種の化学物質が含まれ、うち60種以上が発癌物質と言われている。
これらの発癌物質の多くは、身体内で代謝される過程で中間代謝産物に変化し、これが細胞の核内のDNAの一部に共有結合し付加体を形成する。この付加体は細胞本来の修復システムにより除去されるか、もしくは細胞自体が死んでしまう(アポトーシス)結果をもたらす。多くの場合はこうなるわけだが、何万回、何十万回と気管支・肺に発癌物質の暴露を繰り返させていると(喫煙のことね)、修復も細胞死もおこらず、遺伝子が突然変異を起こしてしまう事がある。ある遺伝子にこれが生じてしまうと、死なずに無限増殖を繰り返す細胞=癌細胞が出来てしまうわけである。実際、代謝酵素やDNA修復酵素の違いにより、発癌の危険性に差が出るという報告がある。

喫煙の肺癌リスクに関する報告を以下にざっとまとめる。

1.喫煙による肺癌リスクの人種差
欧米諸国:喫煙者の肺癌発生リスクが非喫煙者の10 倍以上
日本:喫煙者の肺癌発生リスクは、非喫煙者に比べ男性で4~5倍・女性で3~4倍
   →本邦の2000~2002年の肺癌患者で、男性の10%・女性の83%が非喫煙者
   ⇔シンガポールでは肺癌患者における非喫煙者の割合は、男性15%・女性73%
   ⇔米国では肺癌患者における非喫煙者の割合は、男性6%・女性15%

⇒欧米よりもアジア人の肺はタバコの発癌性に強い?
 この結果を説明する仮説
 ①アジアでは、そもそも喫煙と関連の無い肺癌が多いため、喫煙が目立たない
   (EGFR遺伝子変異肺癌など)
 ②喫煙章が欧米と比較して少ない
 ③食事などの環境の影響により、タバコの発がん性が弱められる
 ④遺伝的なもの


2.喫煙強度と肺癌リスク
肺癌リスクと喫煙総曝露量(期間および本数)との間には,量-反応関係がある

本邦男性の肺癌罹患リスク:
①本数
 1日19本未満喫煙者を1とした場合、
 1日20~29本喫煙者では1.2倍
 1日30~39本喫煙者では1.4倍
 1日40本以上喫煙者では1.6倍

②期間
 25年未満喫煙者を1とした場合、
 25~34年喫煙者では1.9倍
 35~44年喫煙者では2.8倍
 45年以上喫煙者では4.0倍


3.組織型別の肺癌リスク
腺癌・扁平上皮癌・小細胞癌・大細胞癌の4つの組織型すべてにおいて、
喫煙がその発癌と関連していると報告されている

わが国のコホート研究:
①全体
 非喫煙者を1としたときの喫煙者の肺癌リスクは、
 男性で4.5~5.1倍
 女性で2.3~4.2倍

②小細胞癌/扁平上皮癌
 男性で12.7倍
 女性で17.5倍

③腺癌
 男性で2.8倍
 女性で2.0倍


4.肺癌における腺癌の増加
 近年、肺癌において腺癌の占める割合が本邦でも西欧でも増加傾向
 ⇒男性における扁平上皮癌vs腺癌:
  1950年代では18:1→1994年には1.2~1.5:1
 原因:
  タバコ成分の変 化やフィルターの普及(より細かい粒子がより深く吸引されるため)
  女性癌の増加は原因不明・・・(ホルモン?)


次回は、タバコによる発癌過程について。


今回の参考文献
Cancer J Clin 2005;55:74-108
J Epidemiol 2008;18:251-264
Int J Cancer 2002;99:245-251
Environ Health Perspect 1995;103:143-148
臨床と研究 2009;86:818-823




 ・・・寝よう。
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今回も依頼原稿のための勉強。


Adenoid cystic carcnoma of the Trachea or Bronchus

はじめに
・最初の報告は、1859年にBillrothが行った 
   (Virchows Arch Patho Anat 1859;17:357-75.)
 ← おそらく"Master of Surgery"のTheodor Billroth
    腹部だけでなく、喉頭摘出術もランドマークとなる方法を編み出していたのですね。
    スゴイ・・・
・Adenoid cystic carcinoma(ACC)は、以前は“cylindroma”もしくは“adenocystic carcinoma”と呼ばれていた
・MDCTの発達により、迅速な検索とmultiplanar reconstructionによる多方向からの画像検討が容易となった

Clinical Findings
・年齢:40歳代に多い
・性差:なし (J Thorac Imaging 1995;10:180–198)
・喫煙歴:関係ない (Radiology 1977;122:597–600)
・症状:気道の閉塞症状
  →息切れ、咳、stridor、wheezing、血痰/喀血、胸痛、体重減少
    *初期診断時に、喘息や気管支炎との鑑別が問題となる 
  症状出現から診断までの期間は数週間~1年以上
  早期治療で予後が改善するので、早期発見が重要
   (Chest Surg Clin N Am 1996;6:875–898)

・頻度:
 気管腫瘍の発生率は100000対0.2人/年であり、癌による年間死亡数の0.1%以下
   (J Thorac Cardiovasc Surg 1996;112:1522-32.)
 気管原発の腫瘍は呼吸器系腫瘍の2%
   (Cancer 1970;25:1448–1456)
 成人の呼吸器系腫瘍では、良性よりも悪性腫瘍の方が多い(60–83%)
   (J Thorac Cardiovasc Surg 1996;111:808–813)
 気管腫瘍としては、扁平上皮癌(48%)に次いで頻度が高い(33%)
   (Cancer 1990;66:894–899、Am J Surgery 1982;143:697-9)

・治療:切除・放射線照射・両者の併用があるが、治癒には完全切除が望まれる 
   (Am J Surgery 1982;143:697-9、
    J Thorac Cardiovasc Surg 1996;111:808-14、
    Thorax 1993;48:688-92、
    Mayo Clin Proc 1993;68:680-4、
    Cancer 1970;25:1448-56)
 手術・・・気管切除・形成、内視鏡的切除(coring or using a laser)
  Grillo and Marthisenは、気管切除・形成を推奨
   →完全切除は当然だが、不完全切除でも合併症が少なく予後が改善
     (Ann Thorac Surg 1990;49:67-77)
  Maziakらは、不完全よりも完全切除の方が予後が良いことを報告
   →10年生存率で30% vs. 69% 
     (J Thorac Cardiovasc Surg 1996;112:1522-32)
  手術合併症:
   手術死亡率:12% (range,5%-14%)
     (Am J Surgery 1982;143:697-9、
      International trends in general thoracic surgery:
      major challenges. Vol2. Philadelphia: WB Saunders. 1987:91-110.、
      Thoracic Oncology New York: Raven Press, 1983:271-8)
   その他の合併症:ACCは局所浸潤傾向が強く、
              周囲組織の広範な切除が必要となる事が多い
              →気管食道瘻、咽頭/食道のリーク、
               縫合不全、声帯麻痺、一時的な気管切開、
               嚥下障害、イレウス、肺炎 
               (Am J Surgery 1982;143:697-9、
                Thoracic Oncology New York: Raven Press, 1983:271-8)

 放射線:
  唾液腺のACCへの放射線照射は、局所コントロールは良いが、長期予後は改善しない
     (J Thorac Cardiovasc Surg 1996;111:808-14、
      Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1994;120:721-6)
   ⇔ 気管のACCに対しては証明されていない
      しかし気管切除を受け入れることができない患者も多く、放射線照射も選択枝
      →多くのACCは放射線照射に対する感受性があり、
        単独治療でも長期に生存した報告あり
 術後放射線照射・・・効果は不明だが、理論的には有効ではないかと考えられる
 化学療法・・・報告が少ないが、効果は乏しいと考えられている 
          (Am J Surg 1992;164:623-8)

・予後:
 低悪性度腫瘍だが、転移すると予後は2年程度
 5年生存率:66% to 100%
 10年生存率:51% to 62% → これらは治療法によらない! 
    (J Thorac Cardiovasc Surg 1996;112:1522-32、
     Am J Surgery 1982;143:697-9、
     Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1994;120:721-6)

Radiographic and Helical CT Findings
・下部気管より発生する事が多く、次に主気管支・葉気管支・区域気管支(稀)・頸部気管(稀)

胸部単純レントゲン:
・分かりにくいことが多い
   (Ann Thorac Surg 1987;43:276–278)
・気管・気管支内に整/不整/分葉状の突出
・気管外への進展が高度な場合、縦隔陰影が変化
   (Can Assoc Radiol J 1993;44:157–167)

CT:
・軟部組織濃度の腫瘤
 *粘膜下への進展傾向強い
・気管壁の全周性の肥厚
・気管を取り囲む均一な濃度の陰影で、気管壁の肥厚を伴うパターンも 
   (AJR 1986;146:1129–1132、
    AJR 2001;177:1145–1150)
・横軸方向よりも縦軸方向への進展が強い
   (J Thorac Imaging 1995;10:180–198)
・気管周囲180°以上を侵す場合が多い
・形はいろいろ・・・ポリープ状、広基性
・辺縁もいろいろ・・・整、不整、分葉状
・石灰化は稀
・気管の後外側部や前外側部からの発生が多い・・・軟骨と粘膜の結合部で、粘液栓が豊富な部位が原発と考えられている 
   (AJR 1986;146:1129–1132、
    AJR 2001;177:1145–1150)

・頸部気管のACCは、甲状腺や気管軟骨に直接浸潤することがある
   (Chest Surg Clin N Am 1996;6:875–898)
・遠隔転移が生じる・・・診断時に領域リンパ節転移がある確率は10%
   (Ann Thorac Surg 1987;43:276–278)
 頭頸部のACCでは、領域リンパ節転移があると10年生存率が落ちる
   (Cancer 1970;25:1448-56.)
   ⇔ 気管のACCでは不明
・葉気管支・区域気管支原発の場合、無気肺やAir trappingが生じることあり

Pathologic Findings
・マクロでは、辺縁整・境界明瞭 
 *外方への進展性が強く、辺縁が不整なこともある
 *表面が潰瘍化していることもある
・均一で小さな細胞がシート状に並び、典型的な"cribriform growth pattern"もしくは腺管状のパターンをとることが多い
・嚢胞状部分が乏しく固形部分が多い場合は、局所での浸潤性が強く、粘膜下の神経周囲もしくはリンパ管に沿って進展していく傾向が強い
    (Cancer 1970;25:1448-56)

CT–Pathologic Comparisons
・Spizarnyらは、CTでは縦軸方向への進展や周囲臓器への進展が良く分からないと報告した
   (AJR 1986;146:1129–1132)
 →しかし、MDCTの出現とMPRが容易になったことで、この問題は解決されつつある
  CTは術式の決定にも重要
   (Eur J Radiol 2000;34:9–25)



 -徒然-

明日から1週間シカゴです(北米放射線学会)。
去年と違って今回はイベントが盛り沢山なので、楽しみです。
またレポートします。



 -追記-

「リアル 9巻」

年に1冊の恒例行事。
今年も出ました。
井上雄彦氏の作品の中では、最高傑作だと思っています。
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ちょっと前の記事に書いたベバシズマブですが、

肺癌(扁平上皮癌以外)にも適応が拡大されたようです。

治療の選択枝が広がることは、単純に良いことだと思います。

後は、我々の知識と知恵が試されますが。。。


  - またもや新幹線にて 
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