カテゴリ:気胸/血胸( 6 )


このシリーズの最後です。「治療法~予後」まで。


治療
☆今はVATSの時代
  [Chest 2003;124:1004–8., J Thorac Cardiovasc Surg 2004;127:1219 –21.,
   Ann Thorac Surg 2002;74:563–5.]
・診断も含めて、最良の方法
・横隔膜の内膜組織/穿孔部位を切除+縫合(内視鏡のstapler deviceで) 
 →より大きい病変の場合、小開胸し横隔膜を“X-shaped stitches”で再建する
・再発例に置いては、孔を単純に縫う方法もある(診断はできないが)
    [J Thorac Cardiovasc Surg 1998;116:872–3.]
・ブラ様の変化があった場合、そこも同時に切除する
 →臓側胸膜や肺実質内に病変があった場合は、部分切除する
・壁側胸膜病変は、部分的な胸膜切除を
・胸膜の焼灼術Pleural abrationもかつては推奨されていたが,今は胸膜切除術に代わりつつある
    [Ann Thorac Surg 2003;75:378–81.]

☆腹腔鏡
・小さな内膜組織は,腹腔鏡で除去できる  [Fertil Steril 1998;69:1048 –55.]
 表面の病変はhydrodissectionとCO2レーザーで除去可能だが,深部の病変はより深い切除が必要
 →問題点 [Fertil Steril 2002;77:288 –96.]
   ・肝臓があるため術野が狭い
   ・横隔膜の後部に達するのは難しい
   ・切除後の修復も難しい
 →腹部病変に対して,腹腔鏡は診断のみで,治療には開腹を

・今後妊娠を望まないCP患者においては,腹腔鏡で卵管結紮が可能
   [Am Rev Respir Dis 1986;134:803– 4.]
 →「経腹の空気流入」以外の機序であれば無効だが。

☆開胸術
・開胸術もまだ重要な役割がある:こっちの方が横隔膜の処置は容易
 適応…前回手術したにもかかわらず再発した症例
     横隔神経に近い病変は,小開胸を用いた方が良い

・穿孔部の見逃しを防ぐために,polygalactin meshを腱様部にかぶせる施設もある

病態ごとの治療方法
*Catamenial hemothorax:CHt*
・CHtの治療報告は少ない
 Opeを施行した症例はさらに少ない
 →最近,胸膜切除で治療成功した2例の報告あり
   [J Thorac Cardiovasc Surg 2004:127:1513– 4., Afr Health Sci 2001;1:97– 8.]

*Catamenial hemoptysis:CH*
・内科治療で成功しない場合(治療失敗,副作用など)にOpeとなる
   [Scand J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;27:113–5., Chest 1991;100:851-1.]
・VATSもしくは開胸術
 →肺はできるだけ残すべきだが,必要時は切除
・1例だけ,硬性気管支鏡+Nd-YAG laserで気管内の内膜症を治療した報告あり
   [Chest 2003;124:1168 –70.]
 →左上葉枝の起始部に小病変。17ヶ月のフォローアップで再発なし
 気管支鏡による治療の適応は,病変部位と浸潤の程度による
 →気管支鏡で確定診断ができ,かつ病変部位の進展度が明らかなものが内視鏡的治療の対象
 →びまん性の粘膜充血(子宮内膜組織そのものによるものかは不明)が認められたこともあり、
  そのようなケースでは内視鏡治療は無理だろう  [Thorax 2003;58:89 –90.] 

*Catamenial pneumothorax:CP*
・軽症患者では安静が第一  [Chest 1981;80:634 –5.]
 →症状があれば胸腔穿刺。胸腔ドレナージもあり。
・胸膜癒着術はしばしば行われるが、病変部の観察が困難になってしまう。
 Tetracyclineによる癒着術の報告あり→2例あり、両方とも治療失敗したとのこと
 talcによる癒着術の報告→3例全てで成功し、1年後も再発ナシ
   [Am J Med 1996;100:164 –70.]
・子宮摘出+両側の卵管・卵巣摘出術は子宮内膜症の完治術式だが、他の治療法でうまくいかない場合のみに検討すべき


☆内科的治療
・偽妊娠もしくは偽閉経状態に導くホルモン治療を行うことで、理論的には悪化を防げるはず
・様々な薬剤が使用されてきた
 → 経口避妊薬、プロゲステロン作用薬、ダナゾール、
   gonadotropin-releasing hormone(GnRH) agonists など
 →しかし、TESにおける比較試験がない
   [Chest 1991;100:851-1., Fertil Steril 2002;78:183–5.など]
 →どれが良いのか不明
 →値段、副作用、治療期間、妊娠の希望などで変わる

・ここ20年で報告が多いのはダナゾールとGnRHアゴニスト
*Danazol
 エチステロン(17α-ethinyl testerone)の合成ステロイド誘導体
 いくつかのステロイド合成経路を抑制し、血中のフリーテストステロンを増加させ、
 LHのサージを抑制することにより、排卵を止める作用を持つ[2]
 1日600~800 mg(日本では400mg/日くらい)
 副作用…多毛、体重増加、肝障害、血栓症
 最近はより低容量での治療も  [Fertil Steril 1994;62:1136–42.]
 →TESでは低容量治療の効果が乏しいとの報告あり 
    [Thorax 2003;58:89 –90., Thorax 1996;51:1060 –1.など]

*GnRH agonists
 FSHとLHの分泌を抑える
 副作用…骨密度の低下、うつ状態、脱毛、更年期障害(ほてり、いらいら)

・TESにおいて、内科的治療の成績は良くない
 再発率が50%以上
 特にCPで再発が多い  
 Joseph and Sahnのレトロの解析  [Am J Med 1996;100:164 –70.]
 再発率について外科治療 vs 内科治療;
  6ヶ月後…5% vs 50%
  12ヵ月後…25% vs 60%   → 外科治療の方が成績が良い

・現時点では、薬物治療としてはGnRH agonistsが良いと言われている(特に1年以上使用する長期の場合)
 [Heart Surg Forum 1998;1:146 –9., J Thorac Cardiovasc Surg 1999;117:632–3.]


☆併用治療(sequential or combined)
・薬物治療だけでは不十分なため、最近考慮されている
・特に、内科・外科いずれの治療であれ、初期治療で効果不十分な場合に
 ⇒ medical→surgical、surgical→medical approach

*Catamenial hemoptysis;CH*
・内科治療を先に行うことが一般的
 →治療不応もしくは副作用の問題があれば、外科治療
   [Scand J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;27:113–5.]

*Catamenial pneumothorax;CP*
・CPは外科治療を先に行うことが一般的
 →再発したため内科治療を加え、抑えられたという報告あり
     [Ann Thorac Surg 2003;76:290 –1.]
・CP患者に対し、術後すぐにホルモン治療を行う施設もある
 →無作為比較試験はないが、結果は良好である
     [Heart Surg Forum 1998;1:146 –9.,
      J Thorac Cardiovasc Surg 1999;117:632–3.]



予後
・長期予後を大規模に検討した報告はない
 特にCHとCHtにおいて⇔CPは症例がやや多い

・Baganら  [Ann Thorac Surg 2003;75:378–81.]
 CPの10例を平均55.7ヶ月追跡
 →胸腔鏡+癒着術のみの場合再発多い(5例中3例) 
  横隔膜病変を確認し除去された症例では再発ナシ(5例中0)

・Alifanoらの前向き検討  [Chest 2003;124:1004–8.]
 CP8例(横隔膜病変を全例で切除)を平均6.6ヶ月追跡
 →1例で再発あり

 ⇒特発性自然気胸より再発が多い

・適切な治療法については、さらなる検討が必要



以上でこのシリーズは終了です。
症例数が少ないため、なかなか新たな知見が得られないようです。

rare diseaseに関する知見が多くなければ専門を名乗る意味がないと思われますので、
頻度の低い疾患についても定期的に勉強を続けたいと思います。
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Thoracic endometriosis syndromeのレビュー(Ann Thorac Surg 2006;81:761-769)の続き。

結構長いので、本日は「病理~症状~診断」まで。


病理

・TESは、胸腔に正常の子宮内膜組織が存在することで証明される。

・子宮内膜組織塊とは;
 間質組織と腺組織が様々な割合で混在
 多列円柱/立方上皮に裏打ちされる

・Fliederら [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
 9例の胸膜・肺の異所性子宮内膜症の検討
 → 増殖している腺組織:目立たない核、好酸性に乏しい細胞質、細胞分裂像に富む
    間質:細胞質が乏しい間質細胞、血管外に漏出した赤血球、ヘモジデリンを貪食した
       マクロファージ

・分泌像は乏しい [Chest 2001;120:655–8.]

・胸膜(臓側・壁側いずれも)と横隔膜の子宮内膜症の検討 [Fertil Steril 2002;77:288 –96.]
 子宮内膜の間質細胞と腺組織が青茶色の組織片もしくはチョコレート嚢胞に存在
 →出血、線維化、炎症像を伴う

・胸膜病変の詳細 [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
 粒状、もしくは粒状・嚢胞状で、胸膜肥厚・癒着・出血を伴う
 まれに、5mm以下の暗赤色のくぼみとして見える
 切除断片の表面ではなく深部のみに認められることもある
 孤立~多発性の結節の場合が多いが、薄い空洞を呈したり、
  周囲の肺実質内の出血像の内部に入りこんでいることもある。

・まれなタイプ
 気管支血管束内に微小病変が存在する事あり→急性・陳旧性出血像が周囲に存在
 子宮内膜間質組織が気管支血管束の外・肺胞隔壁周囲に認められることも(さらにまれ)
 1例だけ、肺動脈枝の内膜増生、線維化による閉塞が認められ、
  血管内腔が子宮内膜組織で覆われていた報告あり(塞栓像) [Chest 1997;111:1447–50.]

・免疫組織化学検査 [Hum Pathol 1998;29:1495–503]
 ほとんどの腺組織は、細胞質に様々なタイプのcytokeratin、cytokeratin 7、BER-EP4を認めた
 核にestrogenとprogesterone receptorを認めた
 間質細胞のほとんどは、細胞質にvimentinを認め、約30%にactin、smoothmuscle actin、
 desminを認めた
 間質細胞の半分は、核にestrogenとprogesteroneを認めた
 上皮系もしくは神経分泌系のマーカーは、間質細胞には認められなかった

臨床症状
・Catamenial pneumothorax
 TESの80%(最多) [Am J Med 1996;100:164-70.]
 Catamenial pneumothoraxの定義:
   月経後72時間以内に生じる気胸  [Chest 2003;124:1004-8.]
   再発が月経時期と関連なく生じた報告もある 
     [Ann Thorac Surg 2003;75:378-81.,
      J Thorac Cardiovasc Surg 2004;127:1219 -21., Chest 1980;77:107-9.,
      Chest 1989;95:1368]
 月経の時期に毎回気胸を生じるわけではない
  →治療前に、平均1-4回の気胸歴あり 10回以上の病歴がある人もいる
           [Arch Surg 1974;109:173-6.]

 ほとんど前例で右側のみ [Ann Thorac Surg 2003;75:378-81.]
 →左側の報告もある 
    [Arch Surg 1974;109:173-6., Obstet Gynecol 1974;44:407-11.]
 →両側はありえるが、非常にまれ
    [Arch Surg 1977;112:627-8., Obstet Gynecol 1977;50:227-31.]

 症状:咳
     息切れ
     胸痛…自然気胸と同じだが、“横隔膜痛”=肩甲骨や頸部に放散する疼痛を訴える症例も
     ほとんどの症例で症状は軽い⇔ひどいときもある [Chest 1990;98:713?6]

・Catamenial hemothorax
 TESの14% …CPに合併して生じるが、まれ。
 右側がほとんどだが、右はCP・左はCHという症例あり [Chest 1994:106:1894-6.]
 症状:非特異的
    咳、胸痛、息切れ
    肺塞栓症状に似ていると報告あり [J Thorac Cardiovasc Surg 2004:127:1513-4.]
    血胸量は様々だが、重症もありえる
    レントゲン:単なる胸水貯留のみ
 CT:胸膜に粒状病変や大きな腫瘤を認めるかもしれない [Afr Health Sci 2001;1:97-8.]

・Catameniai hemoptysis
 月経周期に伴う周期性の喀血は非常にまれ→英文論文で約30 cases
                              [Chest 1999;115:1475-8.]
 月経周期との関連が不明確で、診断に4年を要した報告もあり [Chest 1997;111:1447-50.]
 喀血量は様々大量出血や死亡例の報告はない
 肺実質もしくは太い気道に子宮内膜組織がある

 レントゲン:肺の浸潤影・粒状影がありえるが、ほとんどは何もない
 CT:境界明瞭/不明瞭な浸潤影・結節影・嚢胞・空洞・すりガラス状陰影など
     →子宮内膜組織そのもの、もしくは出血像であり、月経周期でサイズが変わる
    気管支病変のみの場合は、CTは役に立たない[Chest 2000;118:1205-8.]
     →virtual bronchoscopyは役に立つかもしれない
 気管支動脈造影:ほとんどの症例で正常
     [Chest 1997;111:1447-50., Mt Sinai J Med 2002;69:261-3.,
       Chest 1985;87:687-8., Chest 1990;98:1296-7.,
       Chest 2003;124:1168-70., Thorax 2003;58:89-90.,
       Thorax 1996;51:1060-1.].

・Lung nodules
 単独ではまれ
 catamenial hemoptysisに伴う事が多い
 →Joseph and Sahn.ら;TES110例中7例のみ(6%) [Am J Med 1996;100:164-70.]


・月経周期に伴う胸痛:CP or CHt
 →胸痛のみの症例で、腹腔鏡でCPもしくはCHtが診断された報告あり
     [Fertil Steril 2002;77:288-96., Fertil Steril 1998;69:1048-55.]

・肩痛 [Fertil Steril 2002;77:288-96., Fertil Steril 1998;69:1048-55.]
 良く認められる症状であり、頸部や腕に放散する
 心窩部痛や右季肋部痛もあり
 →ほとんどの症例は月経期のみの疼痛だが、月経数日前から疼痛があったという報告もあり
  慢性疼痛で、月経時に増悪したという報告もあり

診断

気管支鏡検査
・Catamenial Hemoptysis (CH)の場合に考慮されるが・・・
    確定診断の役には立たない。肺の末梢に病変が存在するため。
     →出血部は分かる   [Chest 1985;87:687-8., Chest 1990;98:1296-7.など]
    気管支鏡で病変部が分かったという報告は10例ほどしかない
     →多発性、両側、赤紫色の粘膜下病変、易出血性が多い
       [Arch Intern Med 1978;138:991-2., Respir Med 1990;84:157-61.など]
    病変の外観はびまん性の気道粘膜充血(易出血性)~単発の赤い斑点のみまで様々
                                [Thorax 2003;58:89-90.]
    所見があったとしても生検で診断は厳しい→擦過細胞診で分かる事がある
                                [Thorax 1996;51:1060-1.]
    月経の間に気管支鏡を行うと、以前認められた所見が消失しているので、診断の役に立つ


*Video-assisted thoracoscopy(VATS)が広く用いられている*
・Catamenial Pneumothorax(CP)において
 横隔膜病変の観察に有用
   →腱様部(tendinous portion)が最もよく侵される
 穿孔は数㎜のことが多いが、もっと大きなものも報告されている
          [Ann Thorac Surg 1999;68:1413-4.]
 横隔膜病変と胸膜病変は同じ外観
   →数㎜~1cm、色は茶~紫で、月経周期により変化する

・Catamenial Hemothorax(CHt)において
 Joseph and Shanの報告;
  Ope所見のまとめ。CHtの症例のうち7例中5例で胸膜病変あり、全例で横隔膜病変あり
              [Am J Med 1996;100:164-70.]
  CHtの病変の外観…粒状の青茶色~橙赤色のプラーク様の胸膜病変~大きな腫瘤

・lung nodulesにおいて
 VATSが診断に有用  [J Cardiovasc Surg (Torino). 1998;39:867-8.]


*Catamenial chest pain
 腹腔鏡で横隔膜病変が見えることがある
 →小結節~数センチの大結節まで。右がほとんどだが、両側の横隔膜に見られることも
      [Fertil Steril 2002;77:288-96.]

開胸術は現在はあまり行われない
 →VATSで診断には十分なため
  しかし、開胸術によりこの疾患の概要が分かってきた歴史がある
  現在は、VATSで不十分なときのみ行われる
       [J Thorac Cardiovasc Surg 1998;116:179-80.]



  ・・・今回も文字ばかりでスミマセン。次回、「治療」で終了です。
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月経随伴性気胸の症例は2例しか経験した事がありません。。。

このブログへのある方のコメントがきっかけで、今回しっかりとしたReviewを読みました。

感謝します。

長いので、2回に分けます。第1回目は基礎的事項~疫学~病態生理まで。


Thoracic Endometriosis: Current Knowledge
 Ann Thorac Surg 2006;81:761–9

はじめに

・子宮内膜症とは、子宮内膜が子宮腔もしくは子宮筋以外の部位で増殖すること。
 ⇒骨盤腔が最も多く、次にその他の後腹膜腔に多い
  しかし、全身のあらゆる部位で報告されている    [N Engl J Med 1993;328:1759-69.]

・骨盤腔の子宮内膜症について簡単に
 部位:ほぼ全ての臓器で報告あり⇒盲嚢、、卵巣、後方広間膜、仙骨子宮靭帯、子宮
 症状:大部分は無症状。有症状の場合も、非特異的。
    ⇒不妊症、骨盤痛(月経困難症、性交時の疼痛、非周期的下腹部痛)、不正性器出血等 
 治療:鎮痛薬、ホルモン療法、手術など
    ホルモン療法は子宮内膜症進展抑制と疼痛軽減をもたらすが、再発率が高く、
    不妊症への効果も高くない
    保存的手術(妊娠機能を残す)は、目に見える明らかな子宮内膜組織を除去できる
           [N Engl J Med 2001;345:266-75.]
     ⇒腹腔鏡手術は疼痛改善とQOLにおいて有効だが、不妊症の改善効果は不明
           [Hum Reprod 1999;14:1332-4.]

・胸郭内子宮内膜症(Thoracic endometriosis syndrome;TES) 
 腹部・骨盤の子宮内膜症とは異なり、TESはまれ。
 胸郭内(肺内や胸膜表面)で子宮内膜組織が増殖する
 ⇒4タイプ
  catamenial pneumothorax [CP]
  catamenial hemothorax [CHt]
  catamenial hemoptysis [CH]
  lung nodules             
                        [Am J Med 1996;100:164-70.]


疫学
・子宮内膜症は妊娠可能年齢女性の5~15%  [N Engl J Med 1993;328:1759-69.]
・Thoracic endometriosis(TES)の報告110例の検討
 → 平均年齢 35±0.6 years(15 to 54 years)   [Am J Med 1996;100:164-70.]
    *骨盤内子宮内膜症の発症ピークは24~29 years (←興味深い発症時期のズレ)

・TESの最も多い臨床症状であるCatamenial pnjeumothorax(CP)について
 664例の女性自然気胸の検討→ CPは6例 [Chest 1986;89:378-82.]
 196例の女性自然気胸の検討→ CPは11例(5.6%) [Mayo Clin Proc 1974;49:98-101.]
 32例の手術を施行した女性自然気胸→ CPは8例 [Chest 2003;124:1004-8.]

・見落とされがちである [Thorax 2000;55:666-71., Thorax 1997;52:805-9.]


病態生理
・TESはCHt、CH、endometriotic lung nodules(非常にまれ)を引き起こす
 ⇔ Catamenial pneumothorax(CP)は、TESと非常に良く関連するが、
   メカニズムが上記3症候と異なるものもあると考えられている
    [Chest 1993;103:1239-40., Chest 1997;111:1447-50,Thorax 1993;48:1048-9.]

・CHt・CH・CPの症状は、胸郭内に存在する子宮内膜組織が、ホルモンの影響下に周期性に増大・縮小を繰り返し、脱落することにより症状出現
    [Arch Surg 1974;109:173-6.,Chest1990;98:713-6]

・胸郭内の子宮内膜組織片は肺実質、壁側/臓側胸膜、横隔膜、気管支内などに認められる
 →どこに存在するかで症状が異なる

・胸郭内に子宮内膜組織が存在する理由:3つの仮説
 1.体腔上皮化生(coelomic metaplasia) 
     [Virch Arch Path Anat Phys 1924;250:595-610.]
  ・子宮内膜と、胸膜や腹膜の中皮細胞は、発生起源が同じ。
  ・ゆえに、何らかの刺激により子宮内膜へ分化してしまうのでは?  
   →肺内の子宮内膜症や、右側に多い理由が説明できない

 2.子宮もしくは骨盤から、リンパ行性あるいは血行性に転移
     [Surg Gyecol Obstet 1956;103:552-6.]
  ・肺内の子宮内膜症も説明可能。  
  ・外傷や子宮への処置などが原因とされる 
  ・子宮内のリンパ管や血管だけではなく、骨盤内子宮内膜症がある場合には、
   骨盤内のリンパ管や血管からも入り込むと考えられる
           [ Chest 1999;115:1475-8., Mt Sinai J Med 2002;69:261-3.]
  ・Joseph and Sahnのレビュー  [Am J Med 1996;100:164-70.]
    ・TESの84%に骨盤内子宮内膜症が認められたと報告  
  ・剖検のdata [JAMA 1966;196:595.]
    ・肺の子宮内膜症患者は通常両側に病変があるが、胸膜・横隔膜病変は右側しかない
     →肺実質の病変はこの仮説により説明され、
       胸膜・横隔膜病変は下記の「仮説3」によると報告

 3.逆行性の月経→腹膜と横隔膜を通過
  ・「逆行性の月経により骨盤内子宮内膜症が生じる」というSampson’s theoryは、
   広く支持されている          [Am J Obstet Gynecol 1927;14:422-69.]
  ・腹膜レベルでの異物除去能が低下
   →子宮内膜組織が生着し増殖してしまう
   →リンパ管・血管へ入り込み転移、もしくは腹腔内→横隔膜経由→胸腔へ、という経路
   *この説は、腹腔内の液体の動きについての検討から考えられた
    →“peritoneal circulation”
      骨盤内の液体、空気、細胞塊、膿は、右結腸傍溝を通って右横隔膜下へ移動する
      これは腹腔内圧と胸腔内圧の差、肝臓の“piston”様の働きによるとされる
                    [Chest Surg Clin North Am 1998;8:449-72.]
  ・そして、横隔膜の欠損部(先天的:多くの人で右横隔膜に存在する. もしくは後天的;手術や、
   子宮内膜の増殖・消退の繰り返しにより穴が開く)を通じて胸腔内へ 
                    [JAMA 1958;168:2013-4.]
   →胸腔内へ進入後、横隔膜もしくは胸膜に生着する
    *横隔膜単独の子宮内膜症は多いが、胸膜・横隔膜子宮内膜症の合併もあり 
                    [Ann Thorac Surg 2003;75:378-81.]

 ⇒どの仮説もTESの全ての臨床像を説明できるものではない
  おそらく、複合的なのだろう


子宮内膜組織はどのようにして臨床症状を起こすのか?
・Catamenial hemoptysis (CH)
 肺実質もしくは気管支内(まれ)に子宮内膜組織が存在

・Catamenial hemothorax (CHt)
 子宮内膜組織は胸膜表面に存在
 →子宮内膜組織からの出血   [Obstet Gynecol 1981;58:552.]

・Lung nodules 
 まれに、TESの症候が肺結節のみのことがある
 → 肺の末梢部分に多い
   無症状
   高齢女性に多い

・Catamenial Pneumothorax (CP)
 4つのメカニズム
 (1) ブレブの特発性の破裂
  Mayoが提唱   [J Thorac Cardiovasc Surg 1963;46:415-6.]
  ・特発性気胸と月経が偶然同時に生じたもの報告とした
   ⇔しかし、CPが再発すること、統計学的な検討から、この意見は否定的となった
   →さらに、右側だけに起こりやすいこと、ホルモン療法の効果があることから、
     現在では否定的

 (2) 生殖器官からの空気が横隔膜を通じて進入
  Maurerらが最初に主張 [JAMA 1958;168:2013-4.]
  ・月経期には子宮頚管の粘液栓がないので、この時期は子宮腔・Fallopian tubeを通じて、
   腹腔と外気が通じている
   →空気は子宮の収縮・体動・性交などにより腹腔に入る
   →横隔膜の欠損を通じて胸腔へ(胸腔内は陰圧のため) 
     [Chest Surg Clin North Am 1998;8:449-72.,
      J Thorac Cardiovasc Surg 2004;127:1219-21.]  
     *下は切除した横隔膜の写真。光が透けて白く見えるところが欠損部*
   
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  この仮説について、以前は否定的だったが・・・
  ・過去の症例の検討から、胸膜・横隔膜の子宮内膜症は認められないことが多く、
   横隔膜の欠損はわずかな症例にしか認められなかった  [Chest 1990;98:713-6]

  肯定的な報告がたくさん!
  ・229例のCP [J Thorac Cardiovasc Surg 2004;128:502-8.]
  →胸腔内の子宮内膜症は52.1%、そして横隔膜病変は38.8%の症例で認められたと報告

  ・Alifanoらの前向き検討 [Chest 2003;124:1004-8.]
  →横隔膜病変はCPの全例で認められ、内膜症組織は1例を除き認められた 

  ・Downeyら [AJR Am J Roentgenol 1990;155:29-30.]
  →腹腔内のエアとCPを同時に認めた症例を報告 → この説の裏づけ

  ・Rothら [Ann Thorac Surg 2002;74:563-5.]
  →エアが横隔膜を通じて胸腔内に入ってくる像を写真で撮った

  ・横隔膜欠損のあるCP患者において、卵管を結紮したらCPの再発が抑えられたという報告 
        [Am Rev Respir Dis 1986;134:803-4.]

 ⇒この説は現在非常に有力だが、全てのケースを説明する事は出来ない
   ⇔子宮摘出患者でのCP症例あり!! [Ann Thorac Surg 2003;76:290-1.,33].

(3) 臓側胸膜に存在する子宮内膜組織が消退し、破れる
  Koromら  [J Thorac Cardiovasc Surg 2004;128:502-8.]
  ・30%くらいのケースがこの機序によるものと報告

  ・CP患者において横隔膜欠損を見つけることが出来なかったという報告あり

(4) プロスタグランジンによる細気管支の収縮、もしくは細気管支に存在する子宮内膜組織
   →check-valve機構
   →肺胞の破裂
  Rossi and Gopleurodらが提唱   [Arch Surg 1974;109:173-6.]    古い
  ・CPは月経周期において血中のprostaglandin F2-alphaが増加
   ⇒血管と気管支の収縮を起こす
   ⇒肺胞の破裂を起こす

  局所にprostaglandin産生があれば、血管収縮と気管支収縮をより生じやすくなるという報告
   (possibly from intrapulmonary menstrual debris)  
                              [Surg Endosc 2000;14:680.]

  Lillingtonら [JAMA 1972;219:1328-32.]
  ・“catamenial pneumothorax”という言葉を提唱した人
  ・肺への子宮内膜組織の移入は終末細気管支に達し、check-valve mechanismにより
   過膨脹を引き起こす
   →気胸を起こす
   ⇔しかし、右に多いことが説明できない!



ちょっと長いですが、歴史的な事も学べ、非常に良いレビューです。

字ばっかりでスミマセン。是非原文をお読み下さい。
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年明けから何かと忙しく、睡眠時間を削るしかない状況が続いております・・・
重なる時は重なるもので、本日も緊急で診療所の外来をしています。


さて、緊張性気胸の緊急脱気の際の針の長さはどれくらいが良いのか?という論文です。

症状から緊張性気胸と判断して、レントゲンも見ずに脱気するのはなかなか勇気が要ります。
過去に2例ほど超緊急状態の患者さんをピンク針で脱気した経験がありますが、いずれも非常に緊張しました。自分の診察所見以外に何の証拠もないので・・・かと言って、迷う時間もありませんし。


Needle Thoracostomy for Tension Pneumothorax: Failure Predicted by Chest Computed Tomography
Prehospital Emergency Care 2009;13(1):14 - 17. (米国 ノースカロライナ)

Background
・Tension pneumothoraxは致死的な病態であり、prehospitalでは針で脱気を行うように米国では教育されてきた。
 ⇔ しかし、この効果は良く分かっていない。ちゃんと針は胸腔に入るのか?
・胸部CTを用い、きちんと予想通りに針が胸腔に入るかどうかを検討する。

Materials and Methods
・過去にこの施設に外傷で入院した成人患者をretrospectiveにreviewした。
 → これらの患者において、第2肋間・鎖骨中線上の胸壁の厚みをCTで計測
 → この胸壁の厚みと、標準的に脱気に用いる4.4-cmのangiocatheterを比較した

Results
・110例のデータを収集。平均年齢 43.5 years。
・平均の胸壁の厚みは、右で4.5 cm (± 1.5 cm)・左で4.1 cm (± 1.4 cm)
 →55例の患者において、左右のいずれかの胸壁は4.4cmより大きかった

Conclusion
・4.4-cm angiocatheterは、おそらく50% (95%CI:40.7-59.3%)の外傷患者において脱気に失敗するであろう。
・prehospitalでの脱気法は、ちょっと考え直さないといけない。



外傷は、比較的若い人が多いからこういう結果なのだろうと思います。

そう言えば、緊張性気胸を、胸にボールペンを刺して脱気したドラマがあったような気が・・・長さは十分ですね。


しかし、こういうJournalがあるとは知りませんでした。
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「特発性自然気胸は経過観察で大体大丈夫」という論文を昨日のブログに載せました。
ただし、危険なレアケース(特発性自然気胸の3-7%)として、特発性の血気胸があります。
私自身、19歳のケースで、青ざめる思いをしました。
19時頃に救急外来を受診、来院時は虚脱率50%程度の右気胸でバイタルは落ち着いており、レントゲン上わずかに右胸水を認めていました。
ドレーン挿入後わずかに血液が出てきたのですが、かなり少量だったので入院し経過をみていました。しかしその後出血が持続し、結局24時から緊急手術になりました。助手として手術に入り、胸膜癒着部位の血管からの出血を見せて頂きました。
手術は無事終了し患者さんは何事もなく退院されましたが、外科の先生に「もっと早く連絡しろ!」と、かなり怒られました。
これも研修医2年目の時。思えばあの頃、たくさんの事を頭より体で学んだ気がします。

血胸のレビューです。

Spontaneous Hemothorax : A Comprehensive Review
Chest 2008;134;1056-1065 米国

血胸の定義
・Hemothorax:胸水hematocritが血液hematocritの50%以上
*胸水のHct>5%で血液と見分けがつかなくなる
*血胸のHctは数日で低下するので、「血液Hctの25%以上」との定義もある

血胸の原因
・ほとんどは外傷や医療行為によるもの
・その他の原因
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診断の手がかり
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診断の流れ(クリックで拡大)
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治療は原因によりますが、特発性血気胸の場合は、緊急手術が第一選択です。
保存的治療で良くなった症例も報告されていますが、リスクが高いと思います。
保存的に初期治療し待機手術になった場合、輸血量が増える、ドレナージ期間・入院期間が長いという論文もありますので。

自然気胸を家に帰すのが怖くなりますね・・・



- 徒然 -

本日、また一つの別れを経験しました。
そして、また一人、自分の中の住人が増えました。
たくさんの人々の素晴らしさも、再確認しました。

一緒に生きて行きます。

ひとまずは、おやすみなさい。
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気胸の症例は多く経験しました。
「気胸・嚢胞性肺疾患学会」というレアな学会に、何故かここ2年連続で発表もしています。
バンドのボーカルが気胸のままライブに向かったこともあったなぁ・・・結構な虚脱率だったのですが、意外と大丈夫でした。
特発性自然気胸の初期治療は、経過観察のみでも結構良いという論文。

Outcomes of Emergency Department Patients Treated for Primary Spontaneous Pneumothorax
Chest 2008;134;1033-1036 (オーストラリア)

Background
・特発性自然気胸(PSP)のInternational guidelinesは様々。
・経過観察のみでも十分ではないかという意見が増えている。
・救急外来(ED)で治療された特発性自然気胸の予後について検討した報告は少ない。
 ⇒この検討を行うのが目的

Materials and Methods
・retrospective cohort study
・1996~2005年の間に、2施設のEDで治療されたPSPの経過を検討
・検討データ:demographics, clinical data at presentation, outcome data
・outcome:
 初期治療の成功率がメイン
 *初期治療…経過観察、穿刺吸引、chest tube留置

Results
・合計154例で、203のPSPのepisodesあり。
 男性が70%、年齢の中央値は24歳
 PSPのsize:5~100%

・治療法とoutcome:
 91イベント(45%)が外来経過観察 ⇒ 82イベント(79%)が改善
   *その後の緊急治療が必要であった症例は「0」との事
 48イベント(24%)が穿刺吸引 ⇒ 24例(50%)が改善
 64イベント(31%)がchest tube留置 ⇒ 47イベント(73%)が改善
 *クリックで拡大
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 *各ガイドラインの比較 クリックで拡大
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Conclusion
・PSPの初期治療として、経過観察を行うのもひとつの方法
・今後の治療法を検討するうえで、control armに経過観察をおくべき

感想
Discussionにも書いてありましたが、「入院・安静のみで1日に1.25%ずつ肺が再拡張する」、「入院してchest tube挿入した症例の平均在院日数が16日である」という観察結果から計算して、「20%の虚脱率をcutoffにしてドレナージを行う」というのが標準的になっているようです(Kircher et al. JAMA 1954; 153:24-25)。とても古い報告だと思いますが・・・
それに対しStradlingらは、経過観察のみで対応した症例において、肺の再拡張にかかる日数は、肺の虚脱の程度と相関しないという報告を出しています(Thorax 1966; 21:145-149)。
つまり、エビデンスはないということです。より多く症例を集めて多変量解析を用いれば、もっと良いデータが得られるかもしれません。観察研究なら私でもやれると思いますので、いつかやってみたいと思います。前向きの介入試験はなかなか難しそうですが・・・
今回のように、若くて、50%までの虚脱率なら、経過観察もひとつの方法であるのでしょう。
たしかに、外来で返した若いPSPの患者さんで、緊急で戻ってきた人は一例も経験がありません。興味深い分野です。

ちなみに、研修医2年目の時に初めてoperatorになって執刀した症例は、気胸のブラ切除でした。
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