NアセチルシステインとCOPD
理解不十分なところがありますので、間違いがあればご指摘いただけますと幸いです。
【基本的事項】
・COPDの気道や肺胞の病変は、主に喫煙によりもたらされる
・喫煙そのものから、もしくは喫煙の刺激により気道上皮細胞や肺胞マクロファージ等からoxidant(酸化性物質)が分泌され、これが気管支や肺組織にダメージをもたらすことが分かっている
・oxidantに対する防御因子がanti-oxidant(抗酸化物質)
物質…ビタミンC、ビタミンE、カロテン、グルタチオン、コエンザイムQなど
酵素…グルタチオン系、チオレドキシン系など
【Nアセチルシステイン(NAC)】
・抗酸化物質としての働き
直接的・間接的な抗酸化作用を持つ
直接作用…活性酸素種(reactive oxygen species、ROS:酸化を起こす物質)
と結合して酸化ストレスを抑える
(Moldeus et al 1986; Aruoma et al 1989、Cotgreave 1997)
間接作用…グルタチオン(GSH)の前駆体で、代謝されグルタチオンとなり抗酸化作用
(Moldeus et al 1986).
・臨床薬理学
内服後速やかに吸収される
(Sheffner et al 1966; Rodenstein et al 1978; Borgstrom et al 1986)
最大血中濃度:内服後2–3時間 (Bridgeman et al 1991)
血中半減期:6.3時間
肝代謝でbioavailabilityは低い:未変化体は約10%
肺内の濃度も用量依存性に増加する
(Cotgreave et al 1987; Bridgeman et al 1991、Bridgeman et al 1994)
・抗酸化/抗炎症作用
・マウスに喫煙させる実験で、様々な抗酸化・抗炎症作用が確認された
(Moldeus et al 1986、Cotgreave and Moldeus 1987、Schreck et al 1992、Bridges 1985、Moldeus et al 1985; Voisin 1987; Linden et al 1988; Drost et al 1991、Jeffery et al 1985、Borregaard 1987、Rubio et al 2000)
・ヒトの実験でも証明された
NAC 600 mg/day内服により・・・
肺胞洗浄液内のGSH濃度増加 (Bridgeman et al 1991)
肺胞マクロファージのO2-産生抑制 (Linden et al 1988)
BALの多核白血球減少 (Jankowska et al 1993)
COPD患者にNAC 600 mg/dayで・・・
喀痰のeosinophilic cation protein (ECP)濃度減少
多核白血球減少 (Sadowska et al 2005)
インフルエンザ桿菌と肺炎球菌の口腔咽頭上皮細胞への付着を抑制
(Riise et al 2000)
・喫煙への効果
喫煙者にNAC投与し肺胞洗浄液を検査
⇒NACによりリンパ球が増加し、細胞の構成が正常化する傾向にあった
加えて、肺胞マクロファージの貪食能が改善しleukotriene B4分泌増加
(Bergstrand et al 1986; Eklund et al 1988; Linden et al 1988).
NAC投与により酸化物質(superoxide radicals)の減少 (Bergstrand et al 1986).
NAC投与により炎症マーカー(eosinophil cationic protein, lactoferrinなど)が減少
(Eklund et al 1988).
・エラスターゼ(組織内の弾性線維融解酵素)の活性を抑える
NAC投与により気管支肺胞腔・血漿内の両方でエラスターゼ活性が低下
(Aruoma 1989).
・遺伝子への影響
NAC投与により・・・
NF-kbの活性化を抑制;細胞内接着因子に関する遺伝子の調節を行う
(Schreck et al 1992)
ヒト上皮細胞でvascular cell adhesion molecule-1の発現を抑制する
(Marui et al 1993).
・ウイルスによる酸化ストレスへの作用
マウスへのNAC投与により、インフルエンザウイルスの感染率低下
(Streightoff et al 1966)
インフルエンザウイルスは上皮細胞でROS産生を増加させ、NF-kbを活性化
⇒NAC投与により、virus-induced NF-kb and IL-8 releaseが低下
(Knobil et al 1998)
経鼻的にinfluenza virus APR/8を感染させたマウスでは、BAL中の
xanthine oxidase, TNF, IL-6が感染後3日で増加
⇒Xanthine oxidaseは肺と血中の両方で増加
経口でNAC 1 g/kgを毎日投与⇒ 感染マウスの死亡率低下(p < 0.005)
(Akaike et al 1990)
Rhinovirusesもヒト気道上皮細胞の酸化ストレスを増加させる
⇒NACにより用量依存的に抑制された (Biagioli et al 1999)
・呼気凝縮液の研究
COPDへのNAC(1200mg/日)投与により、呼気凝縮液中の炎症マーカー低下
(De Benedetto et al 2005)
・臨床効果の検討
・Swedenでのopen, observational survey
COPDのFEV1低下速度は、NACを2年間服用した患者で緩やかだった
⇒ 特に50歳以上の患者で著明な効果
NAC服用患者でFEV1が年間-30 mL⇔それ以外の患者で年間-54 mL
(Lundbäck et al 1992).
5年後も、FEV1低下量はNAC群の方で小さかった
(Lundbäck B 1993, pers comm)
⇒ NACの効果はありそうだが、研究手法に問題があるため断言できず
・BRONCUS study
ヨーロッパでの多施設無作為二重盲検試験
NAC600mg/日とプラセボを、COPD患者523例に投与
⇒ FEV1の年間低下率は差なし
3年後のFRC(機能的残気量)はNAC群で有意に低下
吸入ステロイドを使用していない患者では、NAC群で急性増悪回数が22%減少
・Steyらのsystematic review
急性増悪予防、症状改善、副作用について様々な報告をまとめてを検討
①急性増悪予防についての論文は9つ
⇒ NAC投与を受けた351/723例(48.5%)で増悪なし
⇔ プラセボ群では229/733例 (31.2%)で増悪なし
⇒ relative benefit 1.56 (95%CI 1.37–1.77)
number-needed-to-treat 5.8 (95% CI 4.5–8.1)
*投与期間 (12–24 weeks)、累積NAC投与量との関係はなし
②症状改善についての論文は5つ
⇒ NAC投与を受けた286/466例(61.4%)で症状改善
⇔ プラセボ群では160/462例(34.6%)
⇒ relative benefit 1.78 (95% CI 1.54–2.05)
number-needed-to-treat 3.7 (95% CI 3.0–4.9)
⇒これは、過去のメタアナリシスを裏付ける結果であり、
NACの臨床的有用性を示した
(Grandjean et al 2000; Poole and Black 2001)
*ただし、患者背景が不明なのが問題点 (Pauwels et al 2001)
・肺以外の慢性疾患262例へ、NACを投与しインフルエンザ感染や感冒発症の検討
NAC 600 mgを1日2回投与、6ヶ月間
⇒ NAC群で風邪のイベント回数と重症度が低下
局所症状・全身症状ともに低下
プラセボ群とNAC群のインフルエンザ抗体セロコンバージョン率は同じ
⇒ NAC群では感染しても25%しか症状が出なかったのに対し、
プラセボ群では79%も症状が出た
(De Flora et al 1997).
・Chest 2009;136;381-386
対象:40歳以上のCOPD(%FEV1<70%、%FRC>120%)24例
介入:NAC600 mgもしくはプラセボを1日2回内服
デザイン:randomized, double-blind, cross-over study
6週投与→2週休薬→6週投与を
指標:労作前後のIC、FVC、RV/TLC、endurance time
結果:いずれもNAC治療後に改善
考察:用量を増加したのと、測定項目を変更したのが良かった
・・・自分の勉強用メモを端折ったものですので、読みにくくて済みません。
臨床的効果をまとめると、
・1日1200mg(600mgを2回内服)で効果がありそう
・効果とは、症状改善に直結する気道閉塞の改善
・副作用は、今のところ軽い胃の不快感くらいしか報告なし
日本では内服薬が無く、残念ながら正式に認められていません。
サプリメントとして売っている物の品質保証はよく知りませんので、ご注意を。
調べてみると様々な疾患で効果が検討されていて、驚きました(精神疾患まで)。
去痰剤(ムコソルバンやムコダインなど)のCOPDへの効果も興味深いですので、後日紹介したいと思います。