【JW】この空洞はムコールかアスペルか?
本日は第49回胸部画像検討会に参加してきました。
とても勉強になりました。
今日はそのうちの一例について少し考えてみました。
症例:膠原病でステロイド投与中の中年女性の急性呼吸不全
⇒AIPもしくは間質性肺炎の急性増悪などを疑いステロイドパルスで呼吸状態改善
⇒肺に多発結節影出現
⇒空洞化
過去に同様のケースを2例経験した事があり、自分の中では「急速な空洞化を示す結節影」の病態は「塞栓症」だと思っています(エアトラッピング以外で)。もちろん、免疫抑制状態の患者さんなので、塞栓症の原因は感染症(真菌と一般細菌がメイン)です。鑑別としては非結核性抗酸菌症があるでしょうが・・・免疫抑制状態ホストの抗酸菌症としてはちょっと合わない気が・・・。その他としては、肺血栓塞栓症免疫抑制状態がなければWegener granulomatosisなどを考えるところです。
今回のケースも、答えはmucormycosisでした。
*pulmonary mucormycosisのおさらい*
1.菌について
・Zygomycetes網
- Mucorales目 ⇒ 各科の感染病像が類似しており、でひとくくりの「Mucor症」という診断名
- Mucoraceae科(メイン)
Absidia属
Apophysomyces属
Mucor属
Rhizomucor属
Rhizopus属
- Cunninghamellaceae科(少)
Cunninghamella属
- Mortierellaceae科(少)
Mortierella属
- Saksenaeaceae科(少)
Saksenaea属
2.病型
鼻脳型:DM(ケトアシドーシス)、デフェロキサミン投与
肺型:好中球減少(血液疾患が多い)
胃腸型:栄養不良
皮膚型:外傷(土壌汚染)、熱傷、血管内カテーテル
播種型(肺⇒全身他臓器):好中球減少、デフェロキサミン投与
(他に、腎、中枢神経型なども)
3.病理像
・血管侵襲による血栓形成と梗塞を特徴とした急性壊死性炎
・直径15-20μと太い菌糸
幅は不規則
隔壁なし
直角に分岐
⇒HE、PAS、Grocottでよく染まる
アスペルとの鑑別にはcresyl fast violet染色がいいらしい
4.病態生理
・気道から胞子が入る⇒鼻・気道・肺胞などで増殖⇒血管へ浸潤⇒血行性に播種。
・ketone reductaseを持ち、高血糖・酸性の条件下で増殖する
⇒健常人では大丈夫だが、糖尿病では感染しやすい
・デフェロキサミン(desferal)を服用している人も感染しやすい(透析患者など)
⇒デフェロキサミン-鉄のキレートがMucoralesに効率的に取り込まれてしまい、増殖促進
5.日本での頻度
・真菌症の3%くらい
・50-60%が血液悪性腫瘍あり
・肺病変が75%にある
6.画像所見
・斑状、結節状、浸潤影、気管支肺炎、大葉性肺炎、空洞、菌球、胸水貯留・・・いろいろ
*今回の症例の様なパターンは、好中球減少症例に多い
・halo signもある
・菌糸塊に鉄やマンガンが多いと、MRIでlow signalになることもある
7.診断
・痰:空洞形成⇒痰に出てくる⇒3.に書いたような菌糸があれば診断的
・気管支洗浄:同じ
*菌糸が出ても培養で生えない事が多い!!
・β-Dグルカン:Mucoralesでは細胞壁の主要構成成分でないので、役に立たない
・抗原検査:臨床応用にはほど遠いらしい
*鑑別診断
アスペルギルス、Fusarium、Pseudallescheria、肺血栓塞栓症
8.治療
・基礎疾患の改善
・外科的処置
・抗真菌薬:AMPH-Bがほぼ唯一・・・
9.予後
・肺型の場合は死亡率80%・・・
さて、臨床上は必ずアスペルギルスが鑑別の問題になり、ほとんど鑑別できません。
以下の論文は一つの参考になると思います。
Predictors of Pulmonary Zygomycosis versus Invasive Pulmonary Aspergillosis in Patients with Cancer
Clinical Infectious Diseases 2005; 41:60–6 (米国)
Background
・Pulmonary zygomycosis (PZ)は、担癌患者で増加している感染症であり、invasive pulmonary aspergillosis (IPA)と臨床像がよく似ている。
・PZのほとんどのケースは難治性であり、抗真菌薬の投与にもかかわらず悪化する。
・現時点で、PZとIPAの臨床的な鑑別法がない。
Materials and Methods
・16例の癌+PZ症例と、29例の癌+IPAの患者の臨床情報とCT所見(感染症発症時のもの)をretrospectiveにreviewした。
・混合感染例は除外。
・単変量解析で有望なパラメーターを用いて多変量解析(logistic regression model)
Results
・hematological malignanciesが、両群のほとんど(PZで15/16、IPAで28/29例)で認められた。
・logistic regression analysisでPZを示唆するパラメーター
〇clinical characteristics:
concomitant sinusitis (OR, 25.7; 95% CI, 1.47–448.15; p=0.026)
voriconazole prophylaxis (OR, 7.76; 95% CI, 1.32–45.53; p=0.023)
〇CT所見
多発結節影(10個以上)(OR, 19.8; 95% CI, 1.94–202.29; p=0.012)
胸水(OR, 5.07; 95% CI,1.06–24.23; p=0.042)
*その他のCT所見は独立した因子ではなかった
(e.g., masses, cavities, halo sign, or air-crescent sign)
Conclusion
・担癌患者のPZは、上記所見でIPAと鑑別できるかもしれない
もっと病理と画像の勉強をしたいと思いました。
が、早く本業を仕上げねば・・・時間がない・・・