見逃しとは何か? その2


久しぶりの更新です。

先日福岡県のA生I塚病院で行われた「胸部X線セミナー」に参加し、上記タイトルで講演させていただきました。
以下にその内容をざっと記します。
(スライドにはネタをしこんでいたので、こうやって書き出してみるとあまり内容がない気が・・・)

画像読影の3つのエラー

・Perception error・・・異常所見を認識できない。診断ミスの80%を占める
・Cognitive error・・・認識は出来ているが、解釈を間違える。
・Alliterative error・・・「韻を踏む」の意。先に読影した人の所見に引きずられる。

1.Perception errorについて
・まず、実際に10枚の胸部レントゲン写真(全て異常所見あり)を提示し、いくつ指摘できたか試してもらう。どのくらいが標準的な範囲か?

2.Cognitive errorとAlliterative errorについて
・実際に米国であった裁判を提示  AJR 2003;180:37–45
・両者はどんなエラーなのか、米国の裁判の厳しさ、などを知ってもらう

3.「Standard careの範囲」とはどこまでか?
・L. Henry Garlandの仕事について説明
 異常所見の見逃し率: 30%
 検査者間の診断不一致: 30%
 検査者内の診断不一致: 21%
   Radiology 1949; 52:309–328
   AJR 1950; 64:32–41
   Radiology 1952; 58:161–177
   Lancet 1952; 2:505–509
   AJR 1959; 82:25–38

・放射線科医の読影ミスについての検証論文
 胸部・骨・消化管などのレントゲン検査で、30%の見逃しがある
   Radiology 1976;118:257–263
 下部消化管検査で20%の大腸癌見落とし
   AJR 1960;84:316–331
   AJR 1962;87:693–705
   Arch Surg 1964; 88:954–965
   Radiology 1971; 101:207–208
   Radiology 1994; 192:373–378
 26-90%の肺癌が初回のレントゲンで見逃されている
   West J Med 1981;134:485–490
   Radiology 1983; 148:609–615
   Radiology 1992; 182:115–122

・Harvard Universityの放射線科医で、56%の所見不一致が認められた
   Chest 1975; 68:278–282
・画像所見解釈の、放射線科医間の差; 3 – 4.4%
 (正常も異常も混在する日常臨床において) 
   Acad Radiol 1998; 5:148–154
   J Am Coll Radiol 2004; 1:59–65
   AJR 1990; 154:1165–1175

放射線画像診断ミスのまとめ
・「専門医でも異常所見の30%は見逃しており、2%は過常診断している」
・「同じ読影者でも、日によって所見が20%異なる」
・「正常も異常も混在している日常診療上、おそらく3-5%くらいの誤診をしていると考えられる」


他の診断法はどうなの?
・実は非常に低レベル! (1950年代)
- 心筋梗塞の診断で34%の診断ミス
- 肺気腫の診断は15%しか一致しない
- 扁桃切除の必要性について7%しか一致しない
- 心電図で20%の診断ミス
- 59の施設の血算・生化学検査の結果で28%のエラー

・身体所見は? JAMA “Rational clinical examination” series.
 脾腫大 JAMA 1993;270:2218–2221
 肝腫大 JAMA 1994; 271:1859–1865 
 腹水 JAMA 1992; 267:2645–2648
 急性中耳炎 Arch Pediatr Adolesc Med 2001; 155:1137–1142
 → いずれもpoorな一致率 (k = 0.3 - 0.5程度であることが多い)

・臨床検査は?
 生検検体の病理検査における病理医のエラーは25% ~ 49%
 臨床検査室全体でのエラーは24%
   Wall Street Journal, June 14, 2006:D1, D11
   Clin Chem Lab Med 2006;44:750–759

・最終的に・・・
 Autopsyの検討で、生前の重大な誤診が16%
   Mayo Clin Proc 2000; 75:562–567

我々は既に多くを見逃している・・・



見逃しを減らすには?
・「認識のミスは、ケアレスが原因ではないことが多い。脳の生理学的なプロセスの問題。人間であるかぎり、避けられないエラーである。」
   Tuddenham Radiol Clin N Am 1969; 7:499–501

・より見やすくする
 →Dual energy subtraction  AJR 2008; 190:886–891
・人間以外に任せる
 →Digital Radiography and Computer-Aided Detection
   感度を高め、解釈のばらつきを減らす
      Radiology 2000; 215:554–562
      J Am Coll Radiol 2006; 3:446–455
      J Am Coll Radiol 2006; 3:589–608
      J Am Coll Radiol 2006; 3:468–469
   Mammmographyで特に有効
      Radiology 2006; 239:375–383
      AJR 2006; 187:20–28

むなしい事をいうヒトもいる・・・
「テクノロジーは進化しても、人間の目と脳は同様の進化をしない。」
  P. J. A. Robinson  Br J Radiol 1997; 70:1085–1098

「技術が進歩しても、人間はまた新しいエラーをするだけ・・・」



・その他の対策
 clinical history
   AJR 1990; 154:1165–1175, JAMA 1997; 227:49–52,
   Radiol 1982; 7:152–155, JAMA 1996;276:1752–1755,
   Acad Radiol 1995;2:205–208, Radiology 1995; 194:582–583,
   AJR 1981;137:1055–1058, JAMA 2004; 292:1602–1608,
   JAMA 1963;185:339–401

 以前の写真と比較
   AJR 1999; 172:3–6, AJR 2000;174:611–615,
   AJR 1988;150:697–698, Invest Radiol 1994;29:263–265

 ゆっくり読影する
   Radiology 2000; 215:563–567, AJR 2000; 175:17–22,
   Radiology 1981; 138:361–365, Radiology 1988;166:451–453,
   Radiology 1990;174:557–560

 二人で読影
   Radiol Clin North Am 2000; 38:719–724,
   Radiology 1994; 191:241–244, AJR 1995; 164:1291–1292

 その他
   AJR 2000;174:925–931, Radiology 1992; 184:39–43,
   JAMA 1996; 276:73–74

*チェックシートも有効

*日常臨床での努力目標は、放射線科医の誤診率程度に(上記。もちろん難易度にもよるが、トータルで、の話)。非専門医は、とにかくperception errorを減らそう!!*




以前3年間ほどお世話になっていたので、懐かしい顔もたくさんあり、非常に楽しかったです。
若い先生が幹事として主催しており、とても頑張っていました。
「若手が元気で、ベテランの先生方がそれを後押ししている」、そんな雰囲気が感じられ、こういう病院で若い頃に働けたことを幸せに思いました。

原点回帰。

負けないように、私も頑張ろうと思います。

I塚病院の先生方、お疲れ様でした & ありがとうございました。
[PR]