感染症・ALI/ARDSとステロイドのまとめ

年末に数人から質問を受けましたので、一度まとめておきます。
昨年読んだ関連論文を、夏頃にまとめたものです。



A.感染症とステロイド

昨年の論文から

①BMJの感染症に対するステロイド投与のレビュー
Use of Corticosteroids in Treating Infectious Diseases 
 Arch Intern Med. 2008;168(10):1034-10
 *著者が「Steven McGee」ですが、あのMcGeeでしょうか?

「感染症に対するステロイド vs placeboのrandomized, double-blind trial」の論文化されたsutdyについてレビュー。
⇒以下の5群に分類。

Group 1 – 生命予後改善:
 細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、結核性心外膜炎、重症チフス熱、破傷風、中等~重症PCP
Group 2 – 長期でのdisability改善:
 細菌性関節炎
Group 3 – 症状改善:
 帯状疱疹、伝染性単核球症、クループ、肺炎球菌肺炎、咽頭炎、扁桃周囲膿瘍、肺結核、
 リンパ節/気管支結核、結核性胸膜炎
Group 4 – 無効:
 急性気管支炎、ウイルス性出血熱、百日咳、重症市中肺炎
Group 5 – 有害:
 ウィルス性肝炎、脳マラリア

結論:さまざまな感染症でコルチコステロイドは安全かつ有効だが、HIV感染やCD4低値の場合には、3週間までで投与中止すべきである。

②NEJMのネガティブデータ
「Hydrocortisone therapy for patients with septic shock」
 N Engl J Med. 2008 Jan 10;358(2):111-24.
 (ヨーロッパのCorticosteroid Therapy of Septic Shock (CORTICUS) study groupから)

Background
・Hydrocortisoneはseptic shockによく使われている
⇔輸液+vasopressor resuscitationで血圧改善せず、plasma cortisol levelsがcorticotropin投与後にも適切に上昇しない患者のみにbenefitが限られると報告されているにもかかわらず

Methods
・52のmulticenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial
 →251人が50 mg hydrocortisoneを6時間ごとにi.v.×5日間、以後6日間で漸減し終了
   248人がplacebo
・day 28での死亡率を主要エンドポイントとした

Results
・まず、全患者(499人)中、233人(46.7%)でrapid-ACTH陰性
 =相対的副腎不全
 →このうち、125人がhydrocortisone group、108人がplacebo groupへ

・day 28
 rapid ACTH test(-)の両群に死亡率の有意差なし:
   39.2% in the hydrocortisone group and 36.1% in the placebo group,
   P = 0.69
 rapid ACTH test(+)の両群に死亡率の有意差なし:
   28.8% in the hydrocortisone group and 28.7% in the placebo group,
   P = 1.00
 トータルの死亡率:
   86 of 251 patients in the hydrocortisone group (34.3%) 
    vs 78 of 248 patients in the placebo group (31.5%) had died
   P = 0.51

・ショックからの改善は、ステロイド投与群で速やかだった
 →しかし、新しい感染症とそれによる敗血症が生じた!

Conclusions
・ステロイド投与によりショックからの回復は早まるが、生命予後は改善しない

Discussion
・superinfection and new septic episodesが原因
・副腎不全の診断法に問題があるかも
・軽症ショックでは、相対的副腎不全は生命予後にあまり影響しないのかも
・Hydrocortisoneは、ショック早期に投与されれば意味があるかもしれない

ここで「敗血症」の定義を再確認しておきます。
・敗血症:感染症+SIRS (American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine)
・敗血症性ショック:sBP<90mmHg or mean arterial pressure(MAP)<65mmHg or もともとのsBPより40mmHg以上低下+輸液に反応しない
  *輸液に反応したら違いますので注意
・重症敗血症:敗血症+1つ以上の臓器障害(血液異常;DICなどを含む)


③市中肺炎とステロイド
「Corticosteroids in severe pneumonia」 (perspective) 
Eur Respir J. 2008 Aug;32(2):259-64.


・肺炎を含んだ重症感染症に対し、ステロイド投与のエビデンスがある。
・ARDSに対する長期のステロイド投与については、P/F ratioの改善、ショックからの離脱、炎症性サイトカインの低下、ICU入室期間の短縮効果が報告されている。
・重症肺炎では、低用量ステロイドが過剰炎症反応を押さえ死亡率を改善すると報告されているが、このエビデンスは1つのRCTのみ。
・成績は良いようにも思えるが、ステロイド投与には注意が必要。
・まだ以下の情報が足りない。
 type of glucocorticosteroid (hydrocortisone or methylprednisolone)
 dosage to be administered
 duration

・今後のスタディの際に注意すべき事
 1) intensive infection surveillance
 2) avoidance of paralytic agents
 3) avoidance of rebound inflammation with premature discontinuation of treatment
 4) strict control of hyperglycaemia.


Surviving Sepsis Campaign Guideline 2008でも、ステロイド投与はGrade2B~Dです。現時点では、症例を選ぶ必要があります。大阪医大のサイトに日本語版あり。



B.ARDSとステロイド

①2007年のChestから

ARDSにはステロイドやらんかい!(just Do it !!)」 
   editorialですが、ARDSとステロイドの歴史がよくまとまっています。

Meduriのしつこいsingle center randomized placebo controlled trial
   この方はこういう研究を何回もよくやります。強い信念が感じられます。

⇒まとめると、早期ARDS(発症72時間以内)が望ましいですが、いずれのstageでもOKなので、
少量~中等量のステロイドを投与しなさいということのようです。
上記論文ではmethylpredonisolone 1mg/kg/dayを最初の2週間→のこり2週間でtaperingでした。2週間以上たってからの投与や、だらだら長く投与するのはダメなようです。


②ARDSとステロイドのメタアナリシス

「Corticosteroids in the prevention and treatment of acute respiratory distress syndrome (ARDS) in adults: meta-analysis」
 BMJ 2008;336(7651):1006(インド人がやってます)
・予防的にステロイドを投与すると、逆にARDS発症と死亡のリスク増加。
 こんなことする人がいるのかと思ったら、1980年代の論文でした。重症患者にARDS予防でステロイドを投与していたようです。
・ARDS発症後のステロイド投与で、
 死亡率減少傾向(odds ratio 0.62, 95%CI 0.23~1.26; P(odds ratio ≧1)=6.8%)
 ventilator-free days増加傾向(平均差異 4.05days, 95%CI 0.22~8.71; P(平均差異 ≧0)=97.9%)
 ステロイドによる感染リスク増加はない(投与法によると思われる)


最近の論文のステロイド投与法は、過去のようにパルス主体ではなく、低用量~中等量がメインです。感染症・ALI/ARDSのいずれにおいても、ステロイド投与はまだスタンダードとはいえないようですが、上記のように"just do it !!"という人もいます。
以前、この分野で日本のトップの一人の先生にどうやってるのかメールで聞いてみたのですが、結構ステロイド使っているとのことでした。


個人的に、ステロイド投与後にあっという間に改善する症例と、一過性に反応があるもののその後非常にシビアな経過をたどる症例のいずれも経験しています。対象をもっと細分化していくべきなのかな・・・と思っています。今年も勉強してみようと思います。
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by tobbyK | 2009-01-04 15:24 | 感染症